最高の冒険者にだって
今後の話をする俺達だったが、盗賊団捕縛報酬をもらえるまで時間がある。
その間に必要な物を揃えつつ、彼女の空いた時間に訪れて常識を教えてもらう。
そのつもりだったんだが、宿は取らなくていいと言われた。
「ここに泊まっちゃいなさい、トーヤ君。
その方がお勉強も捗るし、何よりもお金の無駄遣いだわ。
うちなら無料宿泊で3食昼寝つき、さらにデザート食べ放題よ!」
「何だって!?」
そう言葉にしたのは俺ではなく、さっきまで震えていた男だ。
「なぁに、ふーちゃん。あなたも泊まりたいの?」
「いいのか!? マジで!?」
「ええ、いいわよ。1泊19800ベルツになります。ご希望は何泊ですか?
3日をすぎると延滞金として5割増しとなりますが、よろしいでしょうか?」
「……俺は金を取るのかよ……しかも延滞金5割増しとか、ひどすぎじゃね?」
何とも楽しそうなラーラと、微妙な空気を出す俺達だった。
このあと俺達は冒険者として必要になるものの調達に行く予定だったが、ラーラの提案により生活用品や調味料を含む食料品を手配して貰えることになった。
なんでも長年懇意にしている店があるのだとか。
彼女のお蔭で大量の食料品や香辛料を持ち運べるだろう。
インベントリは時間による変化を受けることがないチートスキルだ。
空人特有のスキルとも言われているそうだが、人前で使えば相当悪目立ちする。
その対応策として、この世界に存在するマジックバッグを連想させるようなアイテムの出し入れをした方がいいと教えられた。
マジックバッグとは魔導具のひとつで、大きさ以上の物を収納できる。
金や食料品、魔物が落とす素材などを入れて持ち運べる便利なものだ。
容量は物によってピンキリだし、その形も色々なものがあるそうだ。
巾着のような袋やポーチ、サイドバッグやリュックなど様々ある中で、一番目立たなさそうな腰に付ける小さめのバッグを身につけ、必要に応じて袋の中でインベントリから取り出す練習を始めた。
「これができないと悪目立ちしちゃうから、徹底した方がいいと思うわ」
「確かにそうだな」
彼女の話に頷くディートリヒ達。
しかし想像していた通り、マジックバッグはかなり高価なものになる。
それでさえ厄介事になりかねないが、インベントリよりはずっとマシだろう。
たとえ盗まれてもただの袋にすぎないのだから、被害は最小限で抑えられる。
怖い話をすれば、大量の武器を他国に持ち込むことすら可能とするこのスキルは、使い方を間違えれば世界の安寧を軽々と脅かす恐ろしい能力となる。
その辺りも気をつけて使わなければならないな。
そんなことを考えていたら、ラーラ達は笑顔で話した。
「トーヤ君なら大丈夫よ。
間違ったことには使わないって信じてるわ」
「だよな。やっぱラーラさんもそう思うだろ?」
「そうね。ほんとにいい子ねぇ、トーヤ君は。
君ならきっと最高の冒険者にだってなれるわよ」
「残念ながら、そういったものに興味はないぞ。
正直目立つと碌なことにならないだろうし、大人しく世界を旅するのが一番だ」
「……この世界はかなり危ないですし、僕にはひとりでする旅は怖いもの、という認識なんですけどね」
「どこから盗賊が襲ってくるか分かりません。
どうか、十分に注意して下さいね」
「そうするよ。
俺はある程度、危険を察知できるからな。
これに頼りきるのは危ないが、それもしっかり野営で学ぶつもりだ」
「じゃ、ついでに野営用のアイテムも見てみる?
使わなくてもインベントリに放り込んでおくだけで、必要になったとき便利よ」
彼女の薦めで、必要になりそうなアイテムを吟味させてもらった。
テントのようなものもあったが、周囲を見渡せないことから危険だろう。
かわりに撥水性に優れた布を木々へ固定する大きめのタープを購入した。
「豪雨でもしっかりと雨から守ってくれるよ。
地面の水も気にしないで寝られる低めの簡易テーブルみたいなのに毛布を敷いて、ベッド替わりにするのもいいかも」
「……さすがに邪魔じゃね?」
「わかってないなぁ、ふーちゃんは。
地面にそのまま寝るのとちょっと高い場所で寝るのとは、随分違うんだよ」
確かにそうかもしれないな。
色々問題も出てくるし、豪雨の場合は逃げようもない。
横になれそうなテーブルをインベントリに収納できるかも試してみたが、まったく問題ないようだ。
突如として消える机に思うところはあるが、あまり深く考えないことにした。