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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十三章 大切な家族のために
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その基準で決めるのは

 4度目となる赤い箱を開ける子供たち。

 どこか清々しさすら感じているようにも思えるその表情と気配に、随分とまた成長したもんだと、どこか寂しくも思える感慨に俺は浸っていた。


 子供は成長が早い。

 本人が望み、真剣に手を伸ばそうとしている強さなら格段に上達する。


 だからこそ思う。

 成長すればそれだけ教えることもなくなっていく、と。


 ……妙な感覚だな、これは。


 まだまだ教えるべきことは多いし、この子たちの長い人生の中でも体得し尽くせるか分からない領域があることを俺は誰よりも理解しているつもりだ。

 何よりも俺自身、まだまだ未熟者だからな。

 そんな感慨に浸る暇なんてないはずなんだが。


「トーヤトーヤ!

 今度は盾が出たよ!」


 とても楽しそうにしている子供たちを見ていると、俺の頬は自然と緩む。

 やっぱり子供はこうあるべきだと感じる一方で、その笑顔を守りたいと思えた。


「未鑑定品じゃないみたいだな。

 ……"守護者の盾"、か」


 騎士盾のようなデザインでありながら、装飾などは一切ない無骨にも思える銀色のユニーク盾だが、誰もその効果を得られなさそうだな。



【 守護者の盾 】

 城砦スキルの効果が向上する盾。



「……じょうさい?」

「城砦は盾スキルのひとつだよ。

 使用すると盾による防御効果が20秒間上昇するらしい。

 この盾を持つことでどれだけ効果が増すのかは分からないが、少なくともユニーク装備だろうし、これだけでも防御力は高そうだ。

 スキルを持っていれば、それなりに上昇するんじゃないか?」

「そうなんだ。

 んー、あたしには重くて持てないや。

 ブランシェ、使ってみる?」

「盾使ったことないし、面白くなさそうだからいいよ」


 ……その基準で決めるのはブランシェだけだろうな。


 とはいえ、盾には盾の使い方がある。

 素人が持ったところで相手の攻撃を押さえるだけになる上にその隙も大きく、攻撃が疎かになりやすい。

 何よりも弓矢に対して防御するには、それなりの技術と覚悟が必要になる。


 盾の大きさ、強度、重さや自分の技量も理解した上で使いこなせるのは、専門家にしっかりと技術を学び、独自に鍛錬を続けた者だけだろうな。


「そういった意味で考えるなら、盾ってのはかなり扱いが難しい。

 攻撃を防ぐのか、弾くのか、逸らすのか、受け流すのか、体勢を崩すのか。

 目的によって使い方が違うから、武器とはまったく別の技術が必要になるんだ」

「我々には無用の長物か」


 どこかレヴィアは残念そうに答えるが、俺はそうは思わない。


「そうとも言い切れないかもしれないぞ」

「む?

 どういうことだ?」

「盾の扱いが難しいのは、さっき話した通りだ。

 だがそれは、単純に足りないものを補うための技術でもある。

 つまりレヴィアの身体能力なら、ただ構えて相手の攻撃を盾で受け止めているだけでも絶対的強者だと思わせることができるんだよ」


 それで相手の心が折れるなら良し。

 無益な戦いを早期に終わらせることができる。


 心が折れなくても、精神的な不安は技術の揺らぎになるからな。

 そうなれば大きな隙を生み出す結果となり、決定打に繋げられる。


 強靭なレヴィアの肉体なら並の攻撃は通用しない。

 剣だろうが槍だろうが斧だろうが、その一切を弾き返す。


 だが、そんなことをすれば悪目立ちでは済まない。

 それは恐怖を与える話どころではないはずだ。

 その光景を見た者は、畏怖の念を抱く切欠となりかねない。


 そうなれば話に尾ひれがついて町に、いや国中に広まるかもしれない。

 いずれは世界中に知れ渡ることになりかねない事態を招くことも考えられる。


「達人だろうとレヴィアに傷をつけることは難しい。

 だとしても、武器を体で受け止めて欲しくはないが」

「……また、辛そうな顔をしているな」

「え?」


 思わず、俺らしくない返答をしてしまった。

 虚を衝かれたことが原因なのは分かっているが、それでも動揺を隠せない。


「辛そうな顔を、して、いるのか、俺は」

「あぁ、そう見える。

 (ぬし)は我も傷つくことが嫌なのだな」

「それは、そうだが……」

「我は同種の中では弱いとはいえ龍種だ。

 ヒトの子に傷つけられる脆弱な肉体はしていない。

 "それでも"と思ってくれている(ぬし)には、素直に嬉しく思うが」

「んふふ。

 トーヤはレヴィア姉だけじゃなく、みんなが傷つくのが嫌なんだよ」

「そうですね。

 みんな大切な"家族"なんですものね」

「その中に私も入れてもらえたら嬉しく思います」


 満面の笑みで話し合うエルル、リージェ、リーゼルの3人に思うところはあるが、まったく否定できない自分がいた。

 まぁ、誰だって家族が傷つくのを黙って見てるやつなんていないだろ。


 なんて思っていると、微笑ましい視線を向けられていることに気がついた。

 どうも俺には考えている内容が明確に伝わる時が、未だにあるらしい。


「パパ、とっても優しいの。

 みんなみんな、大好きなの」

「……そうか」


 視線を横に逸らしながらそう小さく答えることしか、俺にはできなかった。

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