ヘビィな話になりそうだな
「んじゃ、トーヤたちは危険な探索者と遭遇したってのか?」
「危険とは言えないような馬鹿どもだったが、30階層で遭ったぞ。
ちょっと驚かせてご退場願った程度で許したが」
「……お、おぅ。
中々ヘビィな話になりそうだな」
「そうでもない。
口だけで実力はなかったからな。
ゴーレム討伐に特化しただけの寄せ集めパーティーだったし、遠くからチクチクつつくことしかできない連中だよ」
あれは迷宮外でロクに冒険者として活躍してるような奴らじゃなかった。
個人的な話ではなく、実力として決定的に欠けているものを感じた。
あんなかき集めたパーティーは、30階層以外じゃ通用しないだろう。
「済んだ話だ」
「……そう言いきれるトーヤがすごいのか、それとも連中が馬鹿なだけか……」
「後者だな」
「断言したよ……」
呆れながら答えるライネスだった。
あれから10分ほどしか経過していないが、どちらからともなく自己紹介を始め、いつの間にか会話を楽しんでいた。
彼らは片手剣と盾を装備したチームリーダーのエヴァルドを中心に結成されたパーティーで、両手剣のライネス、弓と短剣のパウル、ボクっ子短剣使いのラッヘル、魔術師レーネの5人で旅をしながら迷宮都市へやってきたらしい。
ランクB冒険者だとは聞いたが、別れた時のディートリヒたちと比べるとかなりの強さを感じさせた。
機動力を活かした前衛がふたりいる点と後衛に魔術師がいる点は俺たちと良く似ているが、その他に壁となるディフェンダーと攻撃特化のフェンサーを入れている攻撃寄りのパーティーだ。
育成学校で技術もしっかりと学んだ上に、それぞれ専門の実力派冒険者に師事し、鍛錬を続けてきたそうだ。
その話になるほどと思えてしまう俺がいた。
武術とは、一朝一夕で手にはいるものではない。
ましてや育成学校を卒業したからといって、到達できる強さ以上のものを彼らは持っていた。
これは自己鍛錬によるものも大きく影響しているだろう。
そうでもなければ、これほどの安定感は身につかないからな。
他国から来たと彼らは言っていた。
恐らくは武を尊ぶ東の大国出身か。
遥か西南西にあるならず者の拠点とは違い、東にある国は武を極めようとする者も多いと聞く。
……いずれはそういった達人と出逢えるかもしれないな。
どうやら彼らにも明確な目的があるようだ。
そのひとつが、噂に名高いアーティファクトの入手らしい。
しかしアーティファクトとは、そう簡単に手に入るようなシロモノでもない。
まず間違いなく下層へ降りなければならないし、俺の予想ではインヴァリデイトダガーの時と同じで隠し部屋に置かれていると思っている。
部屋を隈なく調べながら進むとなれば時間がかかりすぎる。
正直、少人数で調べ尽くせるとも考えにくい。
だからこの言葉が自然と出たのも、不思議なことではないと思えた。
「偶然見つけるような感覚じゃないと手に入らない物なんじゃないか?」
「まぁ、そうだよな。
それでも俺たちの目標は変わらない。
女神が創ったっていう武具を、どうしても見てみたいんだよ」
どうしてそこまで、とは思わない。
人の手で破壊できないと言われる武具に興味がないわけじゃない。
人智を超えた物を手にしようとは思わないが、それでもこの目で見られるなら、なんて期待も俺は持っているようだ。
とはいえ、俺にはもう"無明長夜"があるからな。
これ以上の武器が手に入るとも思えないし、俺にはこれでも十分すぎる。
未だ刀が持つ真価を理解できない程度の技術しか持ち合わせていないからな。
欲を言えば、ブランシェとリーゼルの武器は欲しいか。
全員分のレジェンダリー級の防具は手に入れるつもりだが、いつまでも一般的な武器で戦わせるのも良くないし、手入れを続けてもこれだけ使い込んでいればそう遠くない時期に壊れるだろう。
しかし、それ以上に気になっているアイテムがある。
「俺はむしろ、装飾品に興味があるな」
「装飾品……そっか、ユニークアクセだね」
「色々な加護を持つって聞くからな。
それひとつで何が変わるってことはないと思うが、それでも興味は尽きない」
「そっかそっか~。
愛されてるね~キミたちは~」
どこか嬉しそうに子供たちを見ながら話すラッヘルに、どう答えていいか悩む。
まぁ、こういった場合は深く気にせずにスルーがいちばんか。