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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第三章 掛け替えのないもの
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大人の務め

 話の流れを変えるようにフランツは言葉にした。


「……にしても、こうも簡単にバレるなんてな」

「あらあら。責任の一端はあなた達にもあるのよ?

 あんなに視線を揺らしたら誰だってわかるわ」

「……ぐぅの音も出ねぇ……」

「すみません、トーヤさん。僕も目が泳いでしまいました……」

「俺にも責任があるし、気にしないでいい。

 ……やっぱりこの世界の常識を学ばないとまずいな」

「そうね。その方が懸命だと思うわ。

 なんなら私が常識を教えてあげるわよ」


 思わぬことを提案された。

 俺にとっては非常にありがたいが、素直に受け入れていいんだろうか。


「いいのか? 迷惑なんじゃ……」

「そんなことはないわ。

 空人を導くのは、この世界にいる大人の務めよ。

 ……でも、ひとつだけお願いがあるの」

「き、気をつけろトーヤ! ぼったくられるぞッ!」


 ラーラの言葉に、フランツは取り乱しながら強く言葉にした。


「……あらあらぁ……。

 そろそろ本気で怒っちゃおうかしら?」

「ひぃッ」


 フランツがおののくほどの威圧を放つラーラ。

 心なしか瞳が赤く光っているように見える。


 笑顔でこれだけ威圧を込めれば、かえって怖いんだと知った。

 震えている男を白い目で見つめた俺は、彼女に向き直って訊ねた。


「……それで、願いとは?」

「この世界の常識を教える代わりと言っては何だけど、あなたの世界についても聞かせてもらいたいの。

 どんな世界であなたが誰と暮らし、これまでどう過ごしてきたのかを。

 全部じゃなくていい。でも、よければあなたの日常を聞かせてもらいたいわ」


 彼女の望みに目を丸くする。

 それが彼女にとっては報酬となるのだろうか。

 世界の常識を教えてもらうことは、空人である俺にとって特別なことだ。

 とても些細な願いだと思える彼女の提案を、そのまま受け入れていいのか?


 表情を変えずに俺は聞き返す。

 だが、彼女にとってはそうじゃないらしい。


「そんなことでいいのか?」

「あら、とても大切なことなのよ。

 あなたがこれまで歩んできた"人生"を聞けるんだもの。

 こんなにも素敵なことは滅多にないと私は思うわ」

「……そう、なんだろうか」

「ええ。そうよ」


 満面の笑顔で即答されてしまった。

 でも、これは俺にとって悪い話じゃない。

 むしろ最高の幸運とも思える。


「ラーラさん」

「あら、何かしら?」


 俺は彼女としっかり向き直り、頭を下げながら言葉にした。


「俺に、この世界の常識を教えてください」

「ふふ。そんなにかしこまらなくてもいいのよ。

 でもあなたの気持ちは十分にわかったわ。

 世界の常識だけじゃなく、私の知る限りの情報も教えてあげる。

 あなたが望めば魔導具のことも全部、ね」

「ありがとうございます」


 いたって普通の行動をしていたつもりだが、彼女は俺を見ながら笑っていた。

 どうやらこの作法もこの世界ではあまり見かけないことらしい。


「礼儀正しいのね、トーヤ君は。

 そんなところもどこかあの子に似ているわ」


 そう言葉にした彼女の瞳は、とても寂しそうな色を灯していた。

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