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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十三章 大切な家族のために
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未来性がある力

 ちょろちょろと動き回る狐の魔物に翻弄されるエルルは、なおも決定打を当てられずにいた。


「……ふむ、エルルには厄介な速さか」

「エルルさんの魔法はそれほど発動に隙があるとも思えませんでしたが、こうしてひとりで戦っていただくことで見えるものもあるのですね」

「……そのために単独で戦ってもらっている」


 パーティーのみでの戦いだけで強くなるのは危険だ。

 特に魔術師は、前衛が通した魔物にも対処ができるようになる必要があるんだ。


 いつでも俺が護ってあげられるとは限らない。

 自分だけで解決しなければならない時が必ず来る。


 これは、強くなるためのプロセスのひとつなんだよ、エルル。


「……辛そうだな」

「みたいだな。

 やはりまだリージェほど気配察知を巧く扱えないようだ」

「そうではない。

 我は(ぬし)のことを言っている」


 思わぬレヴィアの言葉に、俺は彼女の方を向きながら固まった。

 一瞬、何を言われたのかも理解できなかった。


「……俺が辛そう、なのか?」

「あぁ、そう見える。

 エルルを大切に想う気持ちは我らも同じだ。

 しかし、あの子が持つ力を信じることも大切なのではないか?」


 信じてないわけじゃない。

 エルルの強さは俺もよく知っている。


 だからこそ俺は、いつものエルルならこうするだろう、なんて考えてしまう。

 普段の力を出していればあんな魔物に苦労することもないと、歯痒く思う。


 ……そうか。

 レヴィアの言いたいことが、ようやく分かった。

 冷静さを維持しているように思えて、内心では不安だったんだな、俺は。


 魔物を倒せないことではなく、エルル自身が攻撃を受けて傷つくことが、だ。

 そしてそれは、ここにいる全員へ思っていることでもあった。


「……過保護だな、俺は。

 かすり傷ひとつでも負わせたくないと、本気で思っていた」

「それも大切に想っているからこそなのだろう。

 そんな優しい心を持つ(ぬし)だから、我らは傍にいたいと願っている」


 フラヴィとブランシェがエルルの邪魔にならないように応援する中、大人たちの優しげな視線が集まる。

 なんとも視線のやり場に困るが、それでも居心地良く思えた。



 ……信じる、か。

 誰も傷つかないようにと、俺は本心から思っていた。

 いざとなれば、俺が魔物を倒してでも、とも。


 でもここにいる誰もが、そんな覚悟はとうの昔にできていたのか。


 エルルも同じだ。

 あの時、俺がエルルの家まで送り届けると決めた瞬間から、きっとこの子の覚悟も決まっていたんだ。


 こんな世界だもんな。

 誰もが傷つかずに怪我をしない旅が続けられるなんて、できるわけもないよな。


「腹を据えたようだな」

「あぁ。

 俺は過剰な心配をしてたみたいだ」

「トーヤさんのは"我が子を心配するお父さん"そのものだと、私は思いますよ」


 くすくすと小さく笑いながら、リーゼルはどこか嬉しそうに答えた。


 そうだな。

 エルルも娘のひとりだ。

 いずれは別々の道を歩むことになるけど、今だけはそう思ってもいいよな。


 その瞬間、胸のつかえが下りたような気がした。


 何を心配していたんだろうな、俺は。

 あの子の強さや、これまでの頑張りを見てきたはずなのにな。


 エルルなら大丈夫だ。

 だから頑張れ。


 それでも難しいなら俺が、いや、俺たちが手を貸すから。

 今は自分にできることを精一杯頑張るだけで十分だ。



 俺たちの祈るような応援が届いたのか、エルルの動きに変化を感じた。


 それはとても小さく、気づきにくいものではあったが、確かに気配が変わった。

 動きそのものはこれまでと同じだが、今の彼女なら違った世界が見えてるはず。


「……勝ったな」

「あぁ、我もそう確信した。

 これはとても不思議な感覚だな」


 気配察知の先、別次元とも思える世界にレヴィアが足を踏み入れた瞬間だった。

 俺が想像していた通り、彼女がいちばん早く到達したみたいだな。


 桁違いの身体能力を持つ彼女だからこそ、感覚の鋭さも俺たちとは違う。

 今の彼女なら"廻"を使った俺の動きも肌で感じ取れるかもしれないな。

 その成長ぶりを嬉しく思いながら、新たな力を目覚めさせたエルルを見守った。


「"魔力の幕(マナ・カーテン)"!」


 エルルの周囲を言葉通り幕のように覆う、薄い赤色の障壁。

 強固な壁で護るようなものではなく、柔軟性を感じさせる魔法盾か?

 爪で攻撃をしてきたライトフォックスが触れると同時に続けて魔法を放った。


「"魔力放出(マナ・リリース)"!」


 爆発したような音を周囲に轟かせながら狐の魔物は宙を舞う。

 その姿に面白い魔法を編み出したものだと感心していた。


 まるで反射させるかのような使い方をしたが、これは攻防一体型の魔法になる。

 相手を空中に弾き飛ばせば大きな隙が生まれることも、エルルは学んでいる。


 そこが最大の勝機。

 まず間違いなく攻撃を当てられる上に、体勢が無防備な状態へ直撃させられる。

 その大きな好機を見逃さなかったエルルは右手を魔物に向け、魔法で追撃した。


「"速射する火の矢ラピッド・ファイア・アロー"!!」


 3本の赤く細い矢が凄まじい速度で魔物に襲いかかる。

 腹部に2本、胸部に1本が直撃し、そのまま光の粒子となって消えた。



 魔法壁で押さえ込み、空中に弾き飛ばして距離を取る。

 無防備な状態を確実に狙うことも、体勢を立て直すことも可能だ。

 今のエルルに必要なものを色々と補うには、かなりいい魔法の数々に思えた。


 それに最後の魔法はラピッドと名が付くだけあって、相当の速度が出せそうだ。

 練度を高めていけば、それこそリージェのストーンショット並の速さを出せるかもしれないし、矢の本数も魔力次第で増えていく可能性がある。

 逆に一撃必倒のような威力重視の矢を、目にも留まらぬ速さで打ち出すこともできるんじゃないだろうか。


 これまでエルルが使ってきた攻撃魔法の中でも、ラピッド・ファイア・アローが使い勝手のいい魔法なのは間違いないだろう。

 様々な状況下で射出数や速度、威力を変えながら撃てる魔法として使えるんだとすれば、それはすなわち"奥義"にすら分類できるほどの魔法技術にまで高められると俺には思えてならない。


 奥義の中には、ある条件化で発動できる限定的な技も他流派にはあると思う。

 しかしエルルの使った魔法は汎用性が高い。

 その上、実戦で効果的に敵を倒すための技だ。


 何よりも、勝敗を決する"必倒の攻撃手段"として使えるだろう。


 また凄まじい魔法を編み出したもんだと思う反面、大切に育ててほしいと思える未来性がある力だと思えた。

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