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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十三章 大切な家族のために
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その表情は険しい

 39階層へ降りて、しばらくが経った頃。

 ここにきてエルルが苦戦を強いられていた。


 この階層に下りてから魔物と遭遇するのは、これで6度目になる。

 それぞれの持ち味を活かしつつ、ある条件を与えて単独で撃破させた。

 適度に素早い魔物がでたことを機に、全員の成長を確認しようと思ったためだ。


 主な理由としては速度の速い敵を倒せるか、ということになるんだが、これには単純な目的以外のことも確認する必要があった。


 相手はライトフォックス。

 その名の通り軽快な狐の魔物で、非常に素早い。

 24階層に出現した鉤爪猫(クロウキャット)よりも速いが、持ち前の身体能力で追いつき、一撃を入れるだけでも倒せる耐久力の低い相手だ。


 しかし、それでは意味がない。

 俺が見たいのは身体的な強さとは別のもの。

 気配察知を活かした討伐ができるかどうかにある。


 つまり今回の合格ラインは、相手の動きを予測した気配察知が持つ"その先"を見せるか、その片鱗を感じさせるだけの感覚が掴めればクリアとした。


 もうすでにフラヴィとブランシェは、その感覚を掴みつつある。

 それなら大人たちはどうなんだろうかと思ったのが始まりだが、俺の想像以上に成長していたみたいで驚かされることになった。


 戦った順番は後方待機を続けていたレヴィア、リージェ、リーゼルの順に先行してもらったが、これまで子供たち3人の戦いを観察しながら気配察知の修練を積んでいたこともあり、その成果とも言える結果を見せてくれた。


 続くフラヴィとブランシェも何度か攻撃を外したが、問題なく倒せた。

 これはいわゆる動物が持つ勘の鋭さや、危険察知能力に近いかもしれない。

 数回の攻撃だけで修正できた点は凄まじさを感じたが、今のこの子たちを止めるほどの強さは相手になかったからな。

 それも当然だろうと、妙に納得してしまった。


 むしろ苦労したのはエルルだった。

 素早く動く相手に、持ち前の魔法が当たらない。


「――くっ!

 "小さな火の壁スモール・ファイア・ウォール"!」


 火属性の魔法壁を出現させ、ちょろちょろと動き回る魔物に当てようとするも、警戒心が非常に強いために回避され、攻撃を許してしまう。


 無詠唱の"小さな壁(スモールウォール)"で防御に成功するも、その表情は険しい。

 しかし、これほど短期間で発言せずにこれほど強固な魔法壁を出せるようになった点は申し分ない。

 本来であればもっと時間をかけて完成させていくはずのものを、この子は短期間でかなりの練度にまで高めていた。


 並の魔術師が見れば、ありえないと断言する成長速度だろう。

 それでも、この子の放つ魔法はかすりもしなかった。


 前方や後方、時には上から火の玉を降り注がせたり、真下から突き上げるように攻撃するも、すべてが避けられている。


 焦りの色は濃く、戸惑いを隠せないエルル。

 そんな姉を見守るフラヴィとブランシェは、後方で静かに応援していた。


 攻撃がこうも外される理由は、距離を取って見れば明確だ。

 魔法とは本来、マナを練り上げて発動するまでに時間がかかる。

 タイムラグが発生する、とも言えるだろうか。


 敵に当てるには、瞬時に発現する力を持たなければならない。

 気配を探り、相手の行動を予測する世界が見えていなければ、リージェのように魔法を当てることは難しい相手だ。


 とはいっても、それほど動きが早すぎるわけでもない。

 フラヴィとブランシェなら身体能力を活かしてダガーを通すこともできるが、エルルにはそれができないからな。


 リージェのように気配を探れるまでには至らないこの子が眼前の動き回る魔物に直撃させるには、エルルが持つ力のひとつを使えばいいんだが、そこまで考えが及ぶほどの冷静さを保てないみたいだ。


 もとよりこの子は"動"寄りの性質を持つ。

 そういった意味でも"静"を習わせるつもりだった。

 だが、体得する前に倒せない敵と遭遇してしまった。


 これは誤算だが、いい機会でもある。

 相手の力は非常に弱く、小さな牙での噛み付きと前足にある犬の爪みたいなものでの攻撃が主で、それほど危険性は感じない。


 問題は、こちらの攻撃も当たらない点か。

 どちらも決定打に欠ける戦いとなって数分が経過したが、今のエルルなら倒せるだけの実力は十分に持っていることに気がついていないようだ。


「……冷静になれ、エルル。

 今のエルルなら、問題なく倒せるだけの強さにまで届いているんだぞ……」


 前線で戦う彼女と俺の距離は遠く、アドバイスも届かない。

 できればひとりで活路を見出せるようになってほしい。


 そういった意味で、これはチャンスでもあるんだよ。

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