それが料理だよ
「ふわぁ、これもおいしいのっ」
「香りがとっても豊かで深みのある美味しさ!
トーヤの作るお料理はどれも美味しいけど、今回のもあたしはすごく好き!」
「はぐっはぐっはぐっ!」
美味しそうに一口ずつ味わいながら食べるフラヴィ、上品に口へ運ぶエルルに、一心不乱にかっ込むブランシェと個性的に食べる3人の反応に頬を緩めながら、俺も食事を続けた。
味見をしながら作ってはいるが、実際に食べてみると煮込みの足りなさや、素材への染み込み具合でわずかに違った料理になることがある。
今回は思った通りの味付けになっているみたいで良かったよ。
「……ふむ、実に味わい深い。
ここにある素材ひとつひとつの味は想像がつくほど食してきたが、まさか手を加えることでこれほど大きく変わるものだとは、本当に不思議なものだな……」
「それが"料理"だよ。
手をかければかけるだけ美味くなるとは限らないけど、素材本来の味を活かせばいくらでもこういったものが作れるんだ」
「はぁ……これほどのお料理をいつもいただけるなんて、幸せを感じます。
本当に王都や首都にある一流料理店でも勝てないほどのお味ですよ」
「それは褒めすぎだと思うが、素直にありがとうと言っておくよ」
「お野菜も美味しいですね。
個性的なお肉料理の味と香りをさっぱりとしてくれます」
「肉料理はどうしても余分な脂を落とす必要がある。
そうしないと重ったるくしつこい味になるが、落としすぎても抜けた味になる。
バランスを感じさせる脂の落とし方が料理を美味しくさせるポイントだろうな」
しつこくなく、けれども肉本来の旨みと脂の甘みを感じさせる一品に仕上げるには、子供の頃から随分と苦労したもんだ。
料理学校なんて行ってないから結局はスマホやテレビでの独学で手にしたものだし、レシピ通りにそのまま作っても俺には美味さを感じない料理も多かったから、自分好みになるように試行錯誤を繰り返してきた。
俺の料理を食べたことがある人からは、絶対そっちの道を進んだほうがいいと断言されることも多かったが、俺としては作ったものを笑顔で美味しいと言ってくれるだけで満足なんだよな。
……むしろ父さんが料理に関しては絶望的だったからな。
初めて食べた時の衝撃は未だに忘れられないどころか、永遠に記憶から消せない自信があるし、今にして思えば素材への冒涜すら感じさせる"塊"を出された光景は地獄絵図そのものだった。
子供心に何とかしなきゃって思ったのも記憶に残ってる。
俺が料理を作れるのも、必然的に体得した処世術だったのかもしれない。
まぁ、料理を作っているはずなのに鍋が爆発するって時点で、それはもう類稀な才能だとも思うが……。
あれからすぐブランシェの腹が盛大に鳴り響いたことを切欠に修練を中断した俺たちは、3人で遊ぶ子供たちの姿に微笑みながら夕食の準備を進めた。
今回の料理は、日本の家族にも好評だった肉料理になる。
俺自身も気に入ってるし、こう喜んで貰えると作って良かったと本心から思う。
やっぱり料理ってのは、笑顔で食べてくれる人がいるからこそ作り甲斐がある。
そういった点を考えれば、客との会話を楽しめない料理店で働くのは、俺には向いていないのかもしれないな。
となると、内装を好みに造り替えて立ち上げた店のほうが楽しそうに思えるが、経営学を学んでいないと色々と苦労しそうな気がする。
どの道、俺はこの世界に骨を埋めるつもりはない。
さすがに店を構えるのは現実的じゃないから、それとなく勧めてくるリーゼルには悪いが、この場で満足してもらおう。
今回作った料理はケーニヒスベルガー・クロプセにクネーデル、味をリセットできるドレッシング控えめの新鮮野菜を使ったサラダと、つまみにもなる大人向けの味付けに少し寄せたザワークラウトだ。
ミートボールにケッパーを加えたホワイトソースで仕上げたクロプセ、つまりドイツ風の肉団子は、仔牛の肉にアンチョビも加えてるものに白ワインとクリームを使い、香りを整えて味に深みを増してあるから相当美味しいはずだと思う。
マッシュポテトと白米をテーブルに置いたが、どうやら白米のほうが好みのようであっという間になくなってしまった。
今もおかわりに手を伸ばすみんなを見ていると、自然と頬が緩んだ。




