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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十二章 静と動
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届かない世界があることを

「んにゃああ!

 もうだめだぁぁ!」


 地面に転がり、大の字になるブランシェ。

 さすがの体力自慢もこれだけ回避され続けると限界だろう。

 肩から息をする姿を見ると、精神的な疲労感のほうが強いみたいだな。


 まぁ、どんな手段を取ろうと避けられる自信が俺にはあるからな。

 そう簡単に触られちゃ、師範代の名にも傷がつきかねない。

 背負っているものを考えれば、当然ではあるんだが。


 フラヴィは早々にへたり込んでいたが、それでも15分は動けるようだ。

 これは魔物の姿の時とは明らかに違う身体能力だな。

 今後もじっくりと成長を見守りたいところだ。


「さっきは"回避の型"と言ったが、実際に発動するような魔法やスキルとは違い、これはあくまでも技術以外の何ものでもない。

 その核たる根源は、すべて気配察知の熟練度によるんだ。

 相手の様子だけじゃなく周囲の流れを強く感じ取ることで、未来予知を思わせる効果すら体現できるようになる」


 "先読みの力"とも言われるこの力は、極めれば奥義にすらなりうる。

 "静"と"動"とは違う扱いではあるものの、すべてに通じ、その延長線上に流派の奥義が存在する。


「つまり、気配察知を制すれば奥義にすら届きうる、ということだな。

 現に俺が見せた"避"は中位技として扱われているし、その本質は回避に限定した力になる」

「ふむ。

 先ほど(ぬし)が言葉にしていた"弱点"とは、このことか」

「そうだ」


 俺はレヴィアへ頷きながら短く答えた。


 実際にこの力を極めれば、十分すぎるほどの効果を見せる。

 攻撃を避け続けるだけと言えば聞こえは悪いが、それを可能とすれば言葉通り別世界の強さを手に入れることができるのは間違いない。

 ブランシェもフラヴィも技術的には卓越したものを持っていると言えるだろう。


 それでもなお届かない世界があることを、ここにいる全員に知って欲しかった。

 そしてこの力が今だ中位止まりだということも踏まえた上で、さらなる高みをみんなには目指してもらいたいと心から思っている。


 これが過ぎた力なのは確実だ。

 それでも必要のない力だとは思わない。

 必ず役に立つし、危険を回避する意味でも絶対に体得してもらいたい。


「まずは気配察知で相手の行動を予測することから入ろう。

 わずかな動作や視線、醸し出すような小さな気配を察することができれば、今よりも使い勝手が格段に良くなる。

 当然、それを確実なものとして信じきることはしないほうがいい。

 逆に返される可能性を考慮した上で、さらにその先の行動を予測するんだ。

 そうすれば、あらゆる面での助けになる力に覚醒するだろう」


 気配察知を真っ先に覚えさせた理由のひとつがこれだ。

 どうしても習熟に時間がかかるのは仕方のないことだと割り切っていたが、使えば使うだけ鍛えられるこの力は最初に覚えるべきものだと俺は判断している。


 流派としては技術面で相当の高みを目指し、かつ信頼の置ける者と最高指導者に許可されなければ体得を許されないほど厳重に護られている技術となる。

 俺がほいほいと教えていたのはここが異世界だからだし、教えた人物もしっかりと見極めたつもりだ。

 悪用なんて絶対にされないと確信した人にしか、気配察知を教えていない。


 まぁ、ディートリヒたちなら悪用なんてしないからな。

 それは微塵も心配していないんだが、問題は俺が教えられていないってことだ。

 我流を直すには、流派を教えられる人物が徹底して看てやらないといけない。

 正直、彼らには悪いが、それほど強くなれないはずだと俺は思っている。


 それもすべては教える側がいないからだ。

 ある程度落ち着いたら、しっかりと看てあげないとな。



 ……あの時、もしも俺がみんなとバウムガルテンを目指していたら。


 最近になってそう思うことが頻繁に増えている。

 もしかしたらフラヴィ以外とは逢えなかったかもしれない。

 きっと今こうして笑顔でいられなかったんだろう、とも思える。


 本当に不思議なものだな、人の縁ってやつは。

 歩いているだけで自然と似たものが集まってるって俺は思っていたけど、もしかしたら運命ってものが本当にあるのかもしれないと思えるようになってきた。


 俺たちは出逢うべくして出逢った。

 誰かにそうされたとは思っていないが、それでもこの出逢いはとても特別なものだということは間違いじゃないはずだ。


 それには明確な意味があって、そうなるように世界が創られていたとしても、俺は大切な家族たちとの出逢いがそうだとは絶対に思わない。


 絶対に、思わない。

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