いい値段に
「……で、どうなんだ? どのくらいのいい値段になるんだ?」
「そうねぇ……見たところ傷があるけど、魔石の方は無事みたいね。
魔力の通りも……悪くないわ。貴重なアイテムだし、お値段は……」
そう言葉にしながらカウンターの下でしばらくごそごそとすると、重みを感じる袋をふたつを取り出し、目の前にどんと置いた彼女は笑顔で答えた。
「680万ベルツってとこかしら」
「ろ、680万!? 買取でその値段って、売値はいくらなんだよ!?」
「それは、あれよ。企業秘密ってことでっ」
にぱっと笑う彼女にどん引く俺達だった。
魔導具屋ってのは、大金をぽんと出せるくらい儲かっているものなんだろうか。
そんなことを考えていると、呟くようにライナーは言葉にした。
「……思っていた以上の大金になってしまいましたね……」
「そんなことないわよ、らーくん。
これはね、ただの石が飛び出るだけの攻撃用魔導具じゃないのよ。
使い手が持つ能力以上を引き出し、更に力を上乗せして攻撃できるものなの。
1000万ベルツでも欲しいって人はこの町にもそれなりにいると思うわ。
微妙なところだけど、迷宮都市でもこの辺りが相場じゃないかしらね。
他国の貴族に話を持っていけば確実にそれ以上は出してくれるでしょうけど、面倒事にもなりかねないから私はこのお店で売るつもりよ。
みんなで仲良くわけわけできるように、金貨と大銀貨を用意したわっ」
無邪気な笑顔を見せるも、別世界のような話に聞こえてならない。
さすがにこれだけすごい値段で売れるとは思っていなかった。
あの馬鹿どもがこれの真価に気づいていれば苦戦していたかもしれないな。
ディートリヒは全員に目で確認するが、意思は変わらなかった。
それを察したラーラは、とても嬉しそうな声色で答える。
「はーい! まいどありー!
他にも魔導具がございましたらぜひ当店にどうぞー!」
笑顔で両手を合わせながら身体を傾けるラーラだったが、正直なところ俺達はどう反応していいのやら悩んでいた。
これだけのアイテムを活用できなかったあの男は、そう遠くないうちに同じ結末を辿るんだろうな。
いや、憲兵を含む討伐隊の編成依頼を撤回とギルドマスターは言っていた。
ここ数日のうちに、事はすべて終わっていたんだろう。
魔導具代金136万ベルツと、宝石を売って分けた19万ベルツを見せかけだけの財布に入れ、俺の所持金は348万ベルツに増えてしまった。
このあと盗賊団捕縛報酬も貰えることになっているはずなんだが……。
「それで、大金も手に入ったし、何かうちで買っていかない?」
「いきなり使えってか、ラーラさん……」
「お金は回してこそ経済が潤うのよ、でぃーちゃん」
「た、確かにその通りだと私も思いますが、少々唐突な気もするのですが……」
「あらあら、えっくんは相変わらずのカタブツさんねぇ。
ここにはそこいらの道具屋では手に入らないものばかりなのよ。
掘り出し物だって中にはあるかもしれないわよっ」
「……なぁ、それって店主が言葉にすることじゃないと思うんだが……」
「気にしなーい気にしなーい。あはははっ」
楽しそうに笑うラーラ。
確かに彼女の言うことも間違いではない。
それがたとえ商売を主軸に考えていたとしても、珍しいアイテムが置いてある店は他にないだろうとも思えた。
大きな町ならいくつか魔導具屋もあるが、この町にはここしかないらしい。
迷宮都市には多数の魔導具屋が並んでいるそうだが、ここからは遠い。
魔物の卵を育てるのに必要なアイテムを探してもいいかもしれないな。




