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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十二章 静と動
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回避に特化した技術

「……なんで……なんで! なんで当たんないのッ!?」


 ブランシェとフラヴィが同時に、それもあらゆる角度から凄まじい速度で放つ猛攻のすべてを、俺は危うげもなく避け続けた。


 まるで宙を舞う羽毛を覚えたての箸で掴み取るようなものだ。

 ここにいる全員を相手取っても完璧に回避し続ける自信はあるが、リージェとレヴィアは人が持つ強さの枠を超えすぎてるからな。

 俺もしっかりと技を使わなければ叩き潰されかねないだろう。

 さすがに強くなるための模擬戦で命を賭けるわけにはいかない。



 2、3回技を使っただけで、それを本能が理解したのかもしれない。

 焦りと不安が入り混じりながらも冷静さを保ち続けようとするふたりに頬が緩むが、それすらも余裕の表情としてブランシェには見えたんだろう。

 徐々にむきになっていく気配を感じつつ、合間合間に肩や腹に手で触る。


 その意味もこの子は十分に理解していた。

 もし俺の手がナイフだったら、その時点で終わっていることを。


 体に触れる度に凍りつくような表情を浮かべながらも必死に打開策を練り、攻撃の手をなるべく休ませずに動き続けた。


「……これは……凄まじい技術だな……こんなことが可能なのか……」


 ぽつりと呟くレヴィアの声が耳に届いた。

 それだけの意味を持たせて俺は動いているからな。

 逆にそう思ってもらえなければ、"静"の中位技を見せる必要もない。


 そもそも攻撃をいなす"逸"なんて、使う意味すらない。

 その前に最短距離を進めた刃で急所を狙うだけで終わる。

 何よりも、わざわざ相手の武器に触れる必要性すら皆無だ。


 下位技となる"逸"は、上位技へ繋げるための技術。

 絶大な効果を見せているように思える中位技だろうと、通過点に過ぎない。


 本来なら学ばせたいと考えている"静"系統の最上位技。

 ここまで学ぶには相応の努力と時間が必要になる。


 だから今は、この力を体得するだけで十分だ。


「"静"の中位技、"()"。

 言葉通り回避に特化した技術になるが、高めればこれだけでも相手からの攻撃を無力化することができる」

「――くっ!!

 攻撃が当たらないなら掴んじゃえばいいんだ!!」


 俺の左手に手を伸ばすブランシェ。

 "避"を使っていなければ触れられていた速度だろうな。


 するりとその場からわずかにずれて、触れることすらも避ける。

 同時にそれを追いかける右手が迫るも、その程度で触られるなら回避技とはとても言えない。


「この技の弱点は"回避の型"だということだ。

 攻撃に転じれば維持できない危険性もあるが、回避に専念した状態としては非常に優秀で、相手に触れさせることすら拒絶する。

 それも最小限の動きで体力の消耗も抑えられ、3時間程度なら避け続けられる」


 実際に軽々と避けているが、それを可能としている力もまた、あの技術だ。


「気配察知。

 これを戦闘に活かすことで相手の隙を狙いやすくなるだけじゃない。

 回避に専念すれば、中位技でもこれだけ高い効果を得られる。

 相手の行動予測、周囲への警戒、風の流れ、地面に伝わる振動。

 そのすべてが気配察知による感覚で自らの力として変換できるんだ」


 ここまで到達するのに、俺でも数年はかけている。


 だが、この子たちはリーゼルも含め特殊すぎるからな。

 俺なんかよりも遥かに早く体得できるだろうし、それを正しく使ってくれる。


 特にブランシェは持ち前の身体能力の高さがある。

 もしかしたら、すぐにでも使いこなせるかもしれない。


 とても楽しみな、けれどもそう遠くない未来に思いを馳せながら、俺はフラヴィの攻撃を避けた。

 この子はすでに"避"を体得しているし、最上位技すら使えるはずだ。


 でも、使う気配はなさそうだな。

 3人で一緒にって気持ちは分からなくはないが、今のフラヴィに攻撃が当たらないのも十分に理解しているから、本人はもやもやが溜まる一方だ。

 俺個人としては自由に技を使ってもらいたいんだが、この子がそう決めたんなら口を出すのは良くない。


 ……まぁ、さすがに"静"の最上位技なんて使われたら、俺でも対処ができない。

 あれは異質な力だから、こっちも使わないと圧倒されかねないだろうな。


 いくら俺の技術を受け継いでいるとはいっても、フラヴィとブランシェは生まれたばかりだ。

 そんなふたりに圧倒される状況を作り出せば、色々と情操教育によろしくない。


 俺の言葉に重みがなくなるし、説得力もなくすだろう。

 そうなれば、真面目に修練を続けても上達が遅れる可能性すら考えられる。

 だから、何が何でも子供たちに負けるわけにはいかない。


 どうせ負けるなら全力を出して負けなければならないからな。

 それが先輩としての、いや、指導者として行う最後の務めになる。

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