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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十二章 静と動
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どう判断するかを

 前衛ブランシェ、中衛フラヴィ、後衛エルル。

 いつもの陣形で3人はロックゴーレムへ一気に駆けた。


 相手は3メートルもあるとはいえ、その動きは鈍い。

 だからといって油断すれば危険なことに繋がる。

 いつでもサポートできるように俺たちは後方で待機だ。


 ブランシェに気づいたゴーレムは両腕を振り上げる。

 やはり単純な攻撃しかできないみたいだな。

 振り上げ、振り下ろし、振り回し、突進。

 この辺りが敵の取れる手段だろう。


 思っていた以上に動きが遅く、今の子供たちならまず当たらない。

 まぁ、あんな巨体で機敏に動かされても戸惑うだけだが。

 とりあえず、攻撃に当たらずに倒しきれることが理想だった。


 しかし……。


「ふむ。

 踵を使った打撃をものともしないか。

 見た目通りの硬さがあるようだな」

「若干ブランシェの構えが雑になっていた。

 十全に打ち込んでいれば威力は腹から背中を突き抜け、手応えがあったはずだ」

「となるとブランシェちゃんはその感覚を得られなかった、ということですか」

「そうなる。

 実際に威力も分散しているから、本人は攻撃が通じないと感じているだろう」

「それはとても危険ですね。

 今のブランシェさんは混乱しているのでは?」

「もしもの時は俺が出るよ。

 この位置なら3秒とかからずにサポートできる。

 それよりも、あの子がどう判断するかを見極めたい」


 攻撃が通じないと判断したことは、そう単純な話でもない。

 別の手段でダメージを与えようにも手応えが得られなかった違和感が頭に残ってしまうから、何をしても効かないんじゃないかと疑心暗鬼になりかねないだろう。


 打ち込む体勢が悪かったと戦闘中に気づける冷静さが理想になる。

 しかしそれは"動"寄りのブランシェにはかなり難しいと言わざるをえない。

 戦いの最中(さなか)に冷静さを保つことが必要だが、あの子にはかなり難しいはずだ。

 そういった部分を残したままでいれば相応の危険に繋がるんだが、あの表情だとそれどころじゃなさそうか。



 フラヴィの攻撃は通っている。

 とてもいいダガーを拾ったもんだと本気で思うが、それを扱うのは人だ。

 いくら性能が良くても技術を持たなければその真価は発揮できない。


 相手が硬いとその感覚も掴み難いが、あの子は技術があるからそれは問題ない。

 動きもそれほど悪くないし、一撃離脱を心がけているために安定感がある。


 だが、懸念していた筋力の低さが敵に与えるダメージを極端に減らしている。

 こればかりは仕方ないとはいえ、ブランシェも含めてそれを改善できる方法をふたりは手に入れているはずだが、やはり実戦で使おうと考えるだけの余裕はなさそうだな。



 エルルも相手の隙を見ては攻撃魔法を当てるが、さすがにミノタウロス戦で使った"フレア・バースト"は使用を控えていた。

 あれは魔法を大して使えない俺から見てもMPの消耗が激しい。

 大技を何発も出せるほど余裕はないだろうし、どちらかと言えばエルルは防御よりの魔法を好むからな。

 巨体から繰り出される攻撃へ対応するため、力を温存するのは悪くない手だ。


 しかし、ブランシェの焦りが目に見えて理解できているエルルにとって、それはジリ貧を感じさせる戦況だと判断してるだろうな。

 ここで何らかの策を講じる必要が出ているが、それをためらっている。


「エルルは打開策も見えているみたいだが、言葉にしていいのか悩んでいるな」

「ふむ、この状況はこれまで見たことがない。

 焦りや不安が色濃く出始めているようだが、こちらも動くか?」

「いや、もう少し見守ろう。

 ここで俺たちが出ても、あの子たちにしこりを残すことになりかねない。

 危機的状況にもなりうるこの場を好転させることが最大の課題だ」


 厳しいようだが、実力としては十分に突破できるだけのものをこの子たちは持っている以上、自分たちだけで考えて行動して欲しいと思えてしまう。

 幸い未だそれほどの危険を感じていないし、冷静に物事を考えることができれば自ずと答えは見えてくるぞ。


「ブランシェ! フラヴィ! 戻って!」

「わかった!」

「うんっ」


 ……どうやら腹を括ったみたいだな。

 その声色から覇気を感じさせる強さがあった。


 どすんどすんと重々しい岩が迫る中、冷静に敵を見据えながらも話すエルル。

 ゴーレムの両腕が振り上げられたところで魔法壁を出し、攻撃を防いだ。


「それじゃあ行こう、ふたりとも!」

「うんっ」

「よーし!

 ここからが本番だ!」


 一気に距離を詰めるブランシェは相手の腕をかいくぐり、腹を突き上げるように右の掌底を深く叩き込み、ゴーレムを軽く浮かせた。


 同時に背後から足首を斬りつけるフラヴィ。

 これ以上のない斬撃音に、俺は自然と口角が上がった。


 そうだ。

 それが正解だ。


 魔法による身体能力を強化させた状態での攻撃。

 それも当たる直前に発動し、距離を取って解除する。

 こうすれば魔力の消費を制限できるし、確実な一撃を当て続けられる。


 格闘術を戦闘に活かしきれないブランシェでも、筋力のないフラヴィでも可能とする最大火力での攻撃方法。

 岩だろうが鉄だろうが、耐久力が存在するならダメージが通る。


 現在のふたりが実現できる最適解だ。


 冷静に力を使うことは難しいし、強化魔法を長時間維持するのは無理だろう。

 それでも現在における最大火力を当て続けられることに気がつけたのは重畳だ。


 やっとエルルも気合が乗ったみたいだな。

 "フレア・バースト"で転倒させたところをふたりが追い討ちをかけ、倒せたようだ。


 これまでにないほどの喜びを見せる3人に微笑みながら、俺たちは歩み寄った。

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