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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第三章 掛け替えのないもの
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一般人の領域

 彼女の軽い精神攻撃に耐えた俺は、カウンターに例の物を置く。

 魔導具へ視線を鋭く戻すラーラは商売人の顔になっていた。


「……なるほど。つまりこれは、盗賊団が抱えてたっていうモノね」

「あぁ。これを買い取ってもらいたいんだが、何か分かるか?」


 俺はあえて石くれが飛び出す魔導具だとは知らせずに訊ねる。

 本職を試すようなことになるが、彼女がどんな評価をするのか興味があった。

 ディートリヒ達もそれを黙って見守ってくれるようだ。


 ふむふむと魔導具を手に取るラーラは、小手から視線を外さずに答えた。


「これは迷宮都市の30階層にいるボスが持ってるって噂のレアドロップ品ね。

 "岩石の小手"と呼ばれるもので、魔力で精製された石が飛び出る効果を持つの。

 修練次第じゃ文字通り岩石だって出せるんじゃないか、なんて言われる一品よ」

「おいおい……当たり魔導具なのかよ……」

「そうだね、ふーちゃん。

 この小手は一般的な攻撃用魔導具と違って、自身の魔力に応じて威力が増す比率が高いって言われているの。それも魔力を増加した状態で放つって噂もあって、30階に入り浸ってる冒険者もいるらしいって話を聞いたことがあるわ。

 私も手にしたのは初めてだけど、魔力を増加っていうのは本当みたいね」


 あの馬鹿盗賊、どうやらとんでもないものを持っていたようだ。

 岩石を飛ばす可能性もあったことを考えると、ディートリヒ達だけではかなり危険だったんじゃないだろうか。

 だからこそランクA冒険者がふたりもいて負けた、とも考えられる。


 虚を衝いたことで隙を生じさせたが、連射されていたかもしれないな。

 ……やはり魔導具は危険だという認識で間違いなさそうだ。


 あの時、受身で立ち回ったのは正解だった。

 魔導具にどんなものがあるのかは分からないが、少なくとも攻撃能力がないものであっても注意するべきだろう。


「あいつら、そんなすごいもんを持ってたのか……。

 もしそれが本当だったら、俺達はかなり危なかったんじゃないか?

 ……っていうか、脱力するからふーちゃんはやめてくれよ……」

「まぁ、相当危なかったのは間違いないと思うわよ。

 話から察すると、弱っちい石が飛んできたんでしょ?

 修練をサボるようなヘタレ馬鹿で助かったってことじゃないかしら」


 中々に辛辣な言葉が飛び出してるが、あまり気にしないでおこう。

 これらの道具について詳しく訊ねると、彼女は真面目な口調で教えてくれた。


 魔導具とは、自身が持つ魔法力で魔石に込められた力を引き出す道具の総称だ。

 専門の魔工師(まこうし)が作り上げたもので、魔法付呪具(エンチャントアイテム)魔法道具(マジックアイテム)とも呼ばれている。

 ひとつの属性しか持つことのできない魔法とは違い、それぞれの魔石に込められた属性に応じて発現させられる。

 そしてその力は、修練次第で威力を増すのが一般的らしい。


 ただし今回手に入れた"岩石の小手"は攻撃倍率が高く、自身の魔力も上がる。

 こういった効果を持つものはかなり希少で、高額取引されるのだとか。


「この小手もそれなりの額で買い取らせていただくわ。

 使いながら冒険するのをお薦めするけれど?」

「いや、俺達はもう売る方向で話を終えてるんだ」

「まぁ、そうよねぇ。

 道具に罪はないけれど、ばっちぃ連中が持ってたものだものねぇ。

 大丈夫大丈夫! 誰が触ってもいいように、しっかりと消毒するわ!」


 あははと笑う店主に、深いため息をつくディートリヒとフランツだった。


「……なんでこう、こんなにも個性的なんだろうな、ラーラさんは……」

「あらあら、それは心外ね。魔導具を扱う人はみんな(・・・)個性的なのよ?

 世の中には売れもしない変なアイテムばっかり作り出してる子もいるんだから、私なんてまだまだ一般人の領域からは出られないのよね」

「……出られないってことは、そこを目指してんのか、ラーラさんは……」

「もっちろんよ!

 誰も見たことのない領域を目指し、日々鍛錬を続ける!

 これのなんと崇高なことなのかしらー!」


 恍惚な表情を浮かべて両手を広げ空を仰ぐ彼女の後ろに、眩い光が見えた。

 ……魔導具を扱う人とは、あまり深く関わらない方がいいのだろうか。


 そんな気がした。

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