正解で不正解
部屋の中央に現れた魔物に視線が集まる。
さて、どうしたもんかと考えながら、俺は言葉にした。
「……まさに、岩石の巨人だな」
「ふむ、言い得て妙に思えるな」
まさか3メートル級の巨体だとは思っていなかった。
岩を強引にくっつけたような姿に間接部が弱点だとは思うが、あの見た目通りなら並の攻撃では弾き返されるだろうな。
大きさを考えれば、鈍重極まる動きと腕や脚を使った攻撃が主か。
それも振り上げ、振り下ろし、振り回しといった単純なもので、技術の欠片もなさそうな威力重視の怪力を単発で打ち付けるくらいしかしてこないと思えた。
いや、巨体を活かした体当たりは、その効果範囲を考えると看過できないほどの威力になるのは確実だ。
だがその程度だ。
さすがにブランシェの格闘術じゃ一撃では倒せないだろうが確実にダメージは通るし、エルルの攻撃魔法なら相手を吹き飛ばして地面に転がすことも可能だ。
今はフラヴィの持っているインヴァリデイトダガーなら普通に斬ることができるから、あの程度の相手ならいまさら俺たちの出る幕はなさそうだな。
相手の形状、予測できる重さや攻撃方法、行動について話し合う子供たち。
その真剣な表情に、先ほどの出来事を引っ張っていないことに安堵した。
あれだけの苛立ちを見せた直後にこの集中力。
思わず微笑んでしまったが、どうやらそれは俺だけではなかったようだ。
「本当に頼もしい子たちですね」
「うむ。
あれだけの集中力は中々出せるものではない。
これもひとえに主の教育の賜物だな」
「だと嬉しいな。
だが元々あの子たちは真面目だし、物覚えもいい。
俺が教えたことからはそれ以上のものを得ているのではなく、あの子たち自身が強くなりたいと思ったことが大きく影響している。
俺はそれが嬉しいし、何よりも誇らしく思うよ」
「このままだと私もすぐに追いつかれてしまいますね」
とても嬉しそうに微笑みながら、リーゼルは言葉にした。
彼女ほどの強さともなれば、さすがにあの子たちでも魔法による身体強化を使いこなさなければ辿り着けない領域になる。
身体能力的にはレヴィアを超えることはないが、強化魔法はそれを突破できるほどの強さにまで昇華できると俺は考えていた。
リーゼルはそれほど強く魔法での強化をすることができない。
ある意味ではそれでも十分すぎるほどの強さなんだが、強くて困ることはない。
それすら通用しない敵が出てくると厄介だし、いないと判断するのは危険だ。
とはいえ、彼女ほどの強さまで辿り着いた者が、そういるとも思えない。
理想で言えば俺の使っている技を覚えることは必須だが、マナを使った強化法も使いこなせると便利だからな。
両方覚えれば安全性も限りなく高まるし、俺も安心できる。
重々しい魔物に作戦がいまいち決まらず、話し合いが続けられていた。
中でも注目した攻略法は3つだ。
ブランシェが思い切り蹴っ飛ばす。
エルルの強い攻撃魔法で吹き飛ばす。
フラヴィの持ってるダガーで斬る、か。
なんとも"らしさ"が前面に出ているな。
しかしそれはどれも正解で、そのどれもが不正解にもなる。
あれだけの大きさともなれば、攻撃範囲、主に地面近くにまで伸びた腕をかいくぐって格闘術を当てる作戦は今のブランシェには少々難しく、下手をすれば攻撃が上手く入らない上に痛みで飛び上がってしまう姿が俺には見えた。
もしそうなれば大きな隙が生まれ、そこを攻撃されたらエルルの防御魔法以外では最悪の場合は直撃しかねない。
エルルの魔法は中々強力だし、大きなゴーレムだろうと吹き飛ばせるはずだ。
だが、致命傷を与えるまでには至らず、瞬時に起き上がられて行動されると今の子供たちは面食らう可能性がある。
それがどれだけ危険な間となるかは、俺が教えずともあの子たちは理解してる。
フラヴィの攻撃はダガーの効果もあって岩石だろうと通るようになっているが、今のこの子には強烈な一撃を放つだけの筋力がない。
間接部に直撃しても怯まず、攻撃をものともせずに腕を振り回されると、フラヴィの速度でも避けきれないほどの隙になるはずだ。
肉を切らせて骨を断つとはよく言ったものだが、非常に強固な鎧に護られた存在ならその手は有効だし、俺がゴーレムを操っていれば確実にそれを狙う。
逆に言えば、重々しい巨人ならそこにしか勝機はないほどだからな。
それを薄々と感じ取っているんだろうな。
決め手にかけると考えているみたいだ。
しかし、ここで俺たちが助言をすることはできない。
子供たちから願い出れば喜んで教えるが、3人はそれを望んでいない。
そしてこれは、強くなるためには絶対に必要なプロセスのひとつだ。
自分たちで考え、より最適な答えを実践できれば今後の自信にも繋がる。
本音を言えばまだ早いし、今は助言を聞き入れつつ確実に魔物を倒して進むほうがいいとは思うが、俺の予想ではいくら固有種だとしてもゴーレムなんてものが迷宮内をもさもさ歩いてるとは思えない。
これもいい経験になると割り切るべきだろうな。
いざとなれば瞬時に行動すれば問題ないから、できる限り子供たちに任せたい。
大人が4人見守る中、強く頷く子供たちに頬を緩ませながら、3人の出した答えを楽しみに待った。




