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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十二章 静と動
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良かったじゃないか

 俺の言葉が理解できずに随分と呆けていたが、ようやく何を言われたのか察することができたようだ。


 その隙を狙えば50回程度は切り込めるだけの時間があった。

 それにすら気が付いていない馬鹿どもは、なおも粋がり続ける。


「あぁ!?

 なに勘違いしてんだクソガキがッ!!

 俺らに勝てると本気で思ってんのか!!」

「こっちゃ24人いるんだぞ!!

 そのお荷物抱えたまま戦えるわけねぇだろうが!!」


 いちばん小さな子を指差して笑う男たち。

 こちらに来ないやつらも同じような気配を垂れ流していた。


 ……まただ。

 本当にこの類の連中が発した言葉の意味が理解できない。

 生き方が違いすぎることもあるんだろうが、それを踏まえたとしてもこいつらがなにを言っているのか、俺にはまるで分からない。


 勘違い?

 俺らに勝てると?

 24人もいる?


 あまりにも馬鹿すぎて失笑すら起きない。


 多少なりとも修練を積んだ経験者、それも命がけで魔物を狩り続けている冒険者が相手の力量すら把握できないことに苛立ちすら感じる。

 この世界の住人が行う訓練、修練の類がお粗末なのは疑いようもないし、その技術も話にならないほど低く拙いものなのも確実だと理解していた。


 だとしても、これだけ悪態をつける理由にはならない。

 いったい何がこいつらの自信に繋がっているんだ。


 まぁ、そんなことはどうでもいい。

 ただひとつだけ言うことがあるとすれば……。


「――うちの娘をお荷物(・・・)と言いやがった言葉に責任を持てよ」


 この場にいる冒険者全員をまるで射殺さんばかりに濃密な威圧を放つ。

 瞬時にフロア全体を覆い尽くす重苦しい気配に、身も心も凍りつく馬鹿ども。


 だが、その程度で俺が許すわけない。

 言うに事欠いてフラヴィを侮辱しやがったんだ。

 もちろんその覚悟もできた上での発言なんだろう?


 こつこつと足音を小さく響かせながら、馬鹿どもの方へゆっくりと進む。

 まるで黒一色に塗り潰されたボス部屋前の空間で、息も絶え絶えの情けない姿を見ながら俺は歩き続けた。



 俺のことは何を言っても構わない。

 体格も細いし、子供と美人を連れ歩いているのも事実だ。

 悪態をつかれても行動に移さないヘタレだし、クソガキなのも間違いじゃない。

 リージェたちも大人の対応をしていた以上、俺は何も言うことなんてない。


 ……でもな、たったひとつだけ赦せないことがある。

 お前らはそれを、下品な笑みで口にした。


「身勝手に振舞った結果は、甘んじて受けるべきだ。

 ……そうは思わないか?

 冒険者を自称する先輩たち」


 汗だくで荒い呼吸に変化した男たちの真横で足を止め、俺は静かに発言した。

 かちかちと口から音を発する馬鹿へつまらなさそうな視線を向け、いつでも斬り捨てられるように剣の柄頭へ左手を乗せる。


「はっきりしておく。

 お前らがどれだけ経験を積もうが、何十年と魔物を狩り続けていようが、お前らが馬鹿にしたいちばん小さな子ひとりに勝てないだけの圧倒的な差がある。

 ここまで来れたのは前を歩いていた3人の実力によるものだし、俺たちは子供達の成長を見守りながら引率していただけで、それが戦えないことを証明しているものではないことくらいは言葉にされずとも察しろ。

 救いようのないほど愚かなのは初めから気付いていたが、それでも限度がある」


 低く、重く。

 心に突き刺さるように話す。


 二度と人を侮辱できないように。

 二度と俺たちの前に姿を見せないように。

 俺は静かに言葉を紡ぎ続ける。


「それと、お前らに助言をくれてやる。

 舐めた態度を取るならその覚悟もしておけ。

 お前らの足りない頭じゃ理解できないだろうが、必死になっても分からないなら次は俺自身がお前らの腐りきった性根を徹底的に叩き直してやるよ。

 今は用事があって付き合えないが、それもじきに終わる。

 ひと月過ぎてもまだこの辺りをうろついてるなら、ランクSになれるまで(・・・・・・・・・・)手を貸してやるから安心しろ」


 真横で小さく悲鳴を上げ、青ざめる馬鹿男A。

 こういった勘違い野郎を正しい道へ導くのも指導者の役目だ。


 ……そう怯えた目をするな。

 俺は金目的で指導しているやつらとは違う。

 お前のような馬鹿でも見捨てず、立派にしてやるよ。

 誰からも憧れる冒険者にしてやるからな。


 良かったじゃないか。

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