ひとつの手
「これが、将来到達できる理想像のひとつだよ。
あくまでも俺がそう思っているだけだから、そうならなければならないなんてことはないし、自分に合ったスタイルを見つけるのがいちばんだ」
それには研鑽し、試行錯誤を繰り返して自分の型を見つけるものだと話した。
この領域に到達できるのは心技体すべてを手にした一握りの修練者になるが、俺はこの子たちなら確実に辿り着けると思っている。
「当面の目標としては、硬度の高い敵が出現した場合の対処法を学ぶことか。
エルルなら魔法の通用する敵に限っては問題なく倒せるが、それが続くとなればMPも底を尽きるだろう?
今のブランシェでも威力を一点集中する蹴り方さえ体得できれば倒せるが、これから先も単独で魔物を退け続ける戦い方が危ないことも3人は理解してるはずだ」
「んー、だとすると、どうしたらいいの、ごしゅじん。
ごしゅじんなら岩も斬れるって言ったけど、アタシたちもできるようになる?」
「それも修練次第だ。
結構コツのいる技術だし、とても限定した技になる。
それだけに突出するのも良くないから今は硬い敵はスルーして先を進み、修練をして対処法を学んだあとに戻って、みんなが倒せるようになっているかを確認するのもひとつの手だと俺は思うよ。
MP切れを考えると休息を取る必要が出てくるからエルルも待機に回ってもらい、ここはブランシェが蹴散らすか、確実に倒せる俺たちが戦おうと思う。
こういった敵が30階層まで続くと思うから、どうしても時間ばかりかかる。
俺としては31階層から3人に任せたいと考えているんだが、どうだろうか?」
全員に視線を向けて確認を取る。
レヴィアなら文字通りに蹴散らせるので彼女ひとりでも突破できるし、リーゼルも技術があるので表面上が硬いだけなら強化魔法を使えば倒せるはずだ。
リージェの筋力はブランシェ並みだが、一点集中型の攻撃魔法が使える。
たとえ魔法が効かない敵と遭遇しても貫いてしまいそうな彼女の凄まじい力に、ストーンマンが耐えられるとはとても思えない。
このエリアを突破するなら、ブランシェの体術トレーニング用の魔物として戦わせながら進むか、俺を含めて現時点で確実に倒せる4人を中心としたパーティーで再編成して進むかの2択になるだろうか。
単純に固い敵ってだけでは子供たちの修練場所にはならないし、戦術、戦略的な意味でも知識を得ることはできない。
俺の予測では、30階層を突破できるだけの力を付けるのに3、4日はかかる。
こんなところで足止めされても時間だけが無駄に過ぎていくだけだから、修練できる場所を見つけて俺がこの子たちの相手をしたほうが遥かに効率的だ。
それを話すと、子供たちも納得してくれたみたいだ。
気持ちとしては倒して進みたいのも重々承知しているつもりだが、ここで多くの時間をかけられない事情がある。
勝手な話で申し訳ないが、ここはスルーさせてもらうことにした。
ふとレヴィアが気になり、訊ねてみた。
彼女の性格から判断すればそう答えるだろうなとは思っていても、しっかりと確認を取るべきだろうからな。
「レヴィアはいいのか?
なんなら体を動かす意味でも任せるが?」
「うむ?
我は特に戦わなくても大丈夫だぞ。
仲間に危機が迫れば動くが、今は後方で周囲警戒と戦況把握を優先したい」
「そうか」
頬を緩ませながら俺は答えた。
レヴィアが後方支援を選んでくれるのは、様々な面でも助かる。
彼女のように聡明な者が後方にいてくれるだけでも俺としてはありがたい。
「ごしゅじん、ごしゅじん」
「なんだ?」
「蹴り方、もっかい教えて?
アタシ、あいつら蹴り飛ばして進みたい!」
「それは構わないが、ひとりで多数を相手取るような形になるまでだぞ?」
「うんうん!」
ものすごい楽しそうなブランシェに若干引きながら、俺は蹴り方を教える。
「相手の硬度を踏まえた最初の一撃は思い切り蹴ったが、硬い部分は表面だけだ。
あんなに強い一撃を入れなくても倒せる相手だと思うから、完璧な体術の蹴り方がまだできなくてもブランシェの筋力なら倒せると思うよ。
それと俺は後ろ回し蹴りをしたが、それだけ隙も大きくなる上に周囲も見えなくなる点には注意が必要だ。
しっかりと気配察知を使い、相手の隙を確実に打ち抜く技術が必要だよ。
攻撃が外れることも想定た上で、次の行動を瞬時に取れるようにもするべきだ」
真剣な表情で話を聞き続けるブランシェ。
これもこの子たちのいいところだな。
だからこそ一般的な冒険者よりも遥かに強くなれる。
資質とも言うべき、強くなるためには絶対に必要なもののひとつだ。
どんな才能を持っていたとしても、強くなりたいって気持ちがなければ手に入れられないし、たとえそれで手にしたものがあったとしても、それはまともに発揮できないと俺は思ってる。
必要なのは、その力をどう使うか。
そして誰のために使うかで本質が変わる。
それが決定的な差として確認できるほど、目に見えて表れるだろう。
その点、この子たちならまったく心配していない。
大切な家族のために力を使うと、はっきり伝わってくるからな。
それは後方で子供たちを微笑ましく見守り続けるリーゼルにも言えることだ。
本当に類は友を呼ぶものなんだな。
どこか誇らしげに思いながら、ストーンマンへ駆け出すブランシェを見守った。




