魔導具店
ギルドを出て食事を済ませた俺達は宝石を売り、魔導具屋まで来ていた。
木製の古びた扉を開けると、店内は想像していたものとは違って明るいことに驚いてしまう。
どうにも偏見からか、こういった店は暗い室内に道具が無造作に置かれているイメージが俺にはあったんだが、その発想は外れていたようで、どことなく安堵している俺がいた。
様々な商品が綺麗に並べられている店内。
多くの魔導具があることに驚き、そしてわずかな焦りを俺は感じた。
先日ディートリヒ達から聞いた話によれば、一流冒険者ともなれば魔導具のひとつを持っていても不思議じゃないらしい。
ダンジョン、特に迷宮と呼ばれる場所ではより高い確率で魔導具が手に入るようで、世界にそういった特殊な効果を持つアイテムがごろごろしているのだとか。
それだけ多くのアイテムが世界に溢れているのなら、敵意を向けてくる人間に対しては常に警戒をしないといけないだろう。
ダンジョンとは本来"地下牢"を意味する言葉だが、ここでは洞窟や遺跡、時には迷いやすい森などにも使われる。
最奥にはなわばりを主張するように強い魔物が宝を抱え込んでいるらしいが、ディートリヒ達が話していたのは迷宮都市と呼ばれる場所になる。
なんでも元々は神様が創ったと言われる場所で、階層ごとにボス部屋とその先に報酬部屋が設けられ、10階層ごとに大物のボスがいるそうだ。
ここから北にある迷宮都市は世界でも最大級のダンジョンとも噂され、発見から千年以上も経つ今現在でも最下層は判明していないと彼らは聞いているらしい。
魔物を蹴散らしながら進み、ボスを討伐して報酬を得る。
これも冒険者ならではの自由な生き方と言われている。
中でも20階層辺りから手に入る魔導具は面白いものが多く、それらを捜し歩く冒険者達とすれ違うことも珍しくはないのだとか。
その"面白い"という表現はどうなんだろうかと思えてならないが、実際に戦闘で役に立つ魔導具ばかりがドロップするとは限らないんだとフランツは言っていた。
店内に置かれた商品を見てみるが、残念ながら俺の鑑定スキルでは商品名しか表示されないようだ。
それでも名前の前に"風の"とか"火の"などがついているので、ある程度予想はつくが、実際に使ってみなければまったく違った効果が出てきそうな気もする。
「ま、こういった魔導具ってのは、専門家に説明されなきゃ分からんよな」
「値段も結構ピンキリなのか。全部高いものだと思ってた」
「ものによって価格は大きく変動するらしいぞ。
とはいっても、いいものはすぐ売れちまうからな。
俺もディートも剣や盾でいい魔導具を探してるんだが、正直目が飛び出るほどの高額商品しかみたことないよな」
「戦闘用に使える魔導具は高いからなぁ……。
今回の報酬金で買えるかどうかも微妙だろうな」
「そんなに高いのか、戦闘用魔導具ってのは。
じゃあ、こいつも高いのか?」
俺は手にしている小手に視線を向けながら訊ねた。
実際にはそれもアイテムの効果によって値段が変わるそうだ。
そんな話をしていると、店の奥から金髪の大人な女性がやって来た。
目元が少々釣り上がっている猫目のような金色の瞳が印象的な人だった。
彼女はこちらを一瞥すると、恐ろしいほどの営業スマイルで挨拶をしてきた。
「あーら、いらっしゃーい!
"夢と魔法の道具屋さん"にようこそー!」
色々と突っ込みたくなるが、反応に困られる言葉が返ってくる気がした。
口を噤みながらなりゆきを見守っていると、どうやら彼らの知り合いのようだ。
「聞いたわよー。これから盗賊団を退治しに行くんでしょ?
なら魔導具を買って行きなさいな! 少しは勉強させてもらうわよ!」
「あー、いや……。それはもう終わったんだよ、ラーラさん」
フランツの返しに首をかしげながら頬に手を当てる仕草が可愛らしいが、中々に物騒な言葉が彼女から飛び出した。
「終わった? っていうことは、もうぼっこぼこにしちゃったの?」
「ボスをぼっこぼこにしたのはトーヤだけどな」
「あらあら、それはすごいのね。
なるほど。君がトーヤ君ね? とても素敵な瞳をしているのね」
「だろ? 俺達も初めて会った時に驚いたよ」
軽く挨拶すると、彼女は満面の笑みで前衛的な言葉を返してくれた。
「はじめまして! 店主のラーラです! 15歳になりましたっ」
「……初対面のやつには必ずする定型文だ。気にするな」
どこかやつれたようにディートリヒは話した。
今まで出会ったことのない種類の人物に戸惑いを隠せないが、こういったことも慣れていかないといけないんだろうか。