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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十二章 静と動
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相性がすこぶる悪い

 ストーンマン。

 人型の魔物ではあるが、その見た目はゴブリンのような容姿をしていない。

 日本で読んできた小説の中では、いわゆる"亜人種"とも言い換えられることがある小鬼とは違い、どちらかと言えば人形寄りと表現したほうが適切だろうか。


 体長50センチ弱で中央の岩へ手足を強引に付け、四角い頭をちょこんと乗せただけの、言ってみれば無骨なロボットのような姿に見えた。


 しかし、これでも一応は生物として動いているようだ。

 気配として察知できることは変わらず、特に違和感もなかった。

 いったいどういった原理で動いているのか興味は尽きないが、魔物である以上倒さなければ進めないことは間違いないだろうな。


 色々と作戦を練っていた子供たちだが、1匹でいることが気になるみたいだな。

 相手が持つ強さを正確に把握できるようになるのはそれなりの経験が必要だし、今はまだできなくても当然だ。


 むしろ修練を始めて間もないこの子たちが理解しても、別の意味で問題になる。

 それは技術が先行して伸び、心と体が未熟だと証明しているようなものだ。

 何事も順序に沿って進まなければ、それは(ひず)みに繋がるからな。

 できるだけ正しい道を真っ直ぐ、けれどゆっくりと進んで欲しい。



 子供たちは頷き、ストーンマンに視線を向けて武器を構える。

 作戦も決まったようで、戦闘用の集中した気配に包まれた。


 お手並み拝見、と言いたいところだが、あれだけ小さいと手段も限られる。

 やはりブランシェが敵を翻弄して、その隙をフラヴィが狙う作戦か。


 相手がどんな攻撃をしてくるのか分からない時は、"(けん)"に回るのがベターだ。

 特に目の前のストーンマンは、どこを向いているのかも判別しづらい。

 前屈みの立ち姿と関節の向きで判断するなら正面くらいは分かるが、それだけの情報で真後ろが安全とは言い切れないからな。


 そもそも生物であるのかも疑わしい見た目だし、人が持つ関節可動域を無視した攻撃をしてくる可能性も視野に入れるべきだ。


 これについて子供たちに教えなかったのは、突発的な危機に対応できる力を付けてもらうためだ。

 もっとも、全方位攻撃といったイレギュラーな事態が起こることを前提とした話になるから、人と同じような動きならそれほど討伐に苦労はしないだろうな。


 近づいたブランシェに襲いかかるストーンマン。

 小走りにしては相当早いが、うちの前衛たちにその程度の速度では当たらない。

 両手を振り下ろした隙を狙い、フラヴィが真後ろからダガーを綺麗に通す。


 ……だが。


「ふむ。

 随分と強固な体をしているようだな」

「周囲にまで音が響くほどの一撃でも、まるで効かなかったように見えますね」

「実際、与えたダメージは激減されてるだろうな。

 元々筋力の低いフラヴィからすると、ああいった敵は厄介になる。

 加えて短剣の威力は片手剣よりもずっと低く、ほかの魔物に攻撃が通じても硬度の高い敵に対しては相性がすこぶる悪い。

 弱点を見つけて一点集中すればフラヴィの攻撃でも倒せるかもしれないが、俺が見たところでは関節も硬そうだし、あの子の力だと決定打を与えるのはちょっと難しそうだな」

「となるとブランシェちゃんの腕力か、エルルちゃんの魔法に頼ることになりそうではありますが……」


 そう言いかけて言葉に詰まるリーゼル。

 変わりにリージェがそれに答えた。


「……随分と素早いですね。

 あれだと魔法攻撃が狙い難く、下手に放てばふたりにも当ててしまいます」

「魔物の動き自体はそれほど速くない。

 しかし、ブランシェもフラヴィも大きく動き回るからな。

 あのふたりを避けつつ後方から魔法を放つとなると、我にも手段がない」


 後方から、という言葉が正解だ。

 だが今のエルルが最前線に出るのは難しいし、無理をすれば止めるだろう。


「大きさも地味に厄介だ。

 ゴブリンより小さい相手はこれまでホーンラビットくらいしか相手にしてなかったし、こんなにちょろちょろ動かれると思考も乱されるからな。

 この場合は前衛ふたりがサポート、エルルを軸に魔法で止めが正解だろう。

 冷静に対処ができていればいつもの3人ならもう倒せていたはずだが、みんな相当焦っているみたいだ」


 さっきの振り下ろし攻撃は両腕から出されたものだった。

 あの威力を考えると、よほど打ち所が悪くなければ大怪我には繋がらない。

 安心してみていられるなと思っていると、業を煮やした子が強攻策に出た。


「――のッ!!」


 足元を走り回る小人に鋭い蹴りを叩き込むブランシェ。

 相手のいちばん大きなボディにクリーンヒットし、ストーンマンを1メートルほど蹴り飛ばすことができたようだ。

 ごろごろと重々しい音を立てながら地面を軽く転がる。


 それもひとつの正解だ。

 しかし、間違いでもある。


「んにゃぁああ!?」


 鈍い痛みに我慢しきれなくなったんだろう。

 右脛を両手で押さえ、垂直に飛び上がる涙目のブランシェに俺たちは笑いを堪えながら話を続けた。


「まぁ、そうなるよな」

「悪くない手……いや、足だ。

 だがあれを通すには我のような肉体的な頑強さが必要になる。

 ヒトの子が生身で岩を蹴ればどうなるかはあの子も分かっていただろうが、よほど苛立っていたみたいだな」

「垂直ジャンプした瞬間、勝敗が決する致命的な隙になるんだが、あれは相当痛いだろうから言わないでおくか」


 ブランシェが必死に痛みを堪えている間に相手を見定めていたエルルは、立ち上がろうとしているストーンマンに魔法を放ち、止めを刺すことができたようだ。

 撃つ前にしっかりと声かけもしていたので、注意がブランシェに向いていたフラヴィも動くことなくエルルに攻撃を託していた。


 色々と課題が見えてきた今回の戦いだが、同じような敵が29階層まで続くなら、何か対策を考えなければならないな。

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