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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十二章 静と動
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素直じゃないですね

 覚悟にも似た決意を胸に刻んでいると、薄赤く色づいた扉が本来の色に戻った。

 どうやらこれで進めるようになったらしい。


「お? やっと先に進めるな。

 トーヤ、お前ら強そうだし、一緒に行くか?」

「いや、ボス戦も修練になるからな。

 俺たちは俺たちで先を目指すよ」

「そうか。

 ま、お前ならそう言うと思ったよ」


 口調が柔らかくなったバルバラはこちらに視線を向けたまま扉に触れ、徐々に開かれていくのを待ちながら優しい言葉をかけてくれた。


「……気をつけろよ、トーヤ。

 歩いてる魔物だけが敵じゃねぇ。

 この場所はお前が想像してるよりも遥かに危険な場所だぞ」


 その言葉が意味するのはひとつだ。

 俺たちが15階層で会った連中など生易しく思えるほどの存在も、この迷宮には確かにいるんだろう。


 ドロップ品を狙ったり、最悪の場合は野盗のようなことをしてくるやつもいると迷宮ギルド職員に注意されたほどだ。


 特に30階層周辺で多く見られる傾向があると聞いた。

 俺が関わった馬鹿盗賊の頭が持っていた"岩石の小手"が680万ベルツという高額買取をしている以上、笑えない話になっている。

 ラーラさんも即金でポンと出せるくらいだし、ある意味では魔導具店が狙われそうにも思えるだが、あの人は強そうだし問題ないだろうな。


 しかし、いくら多数の階層が用意されているとはいっても、遭う時は遭う。

 子供たちに災厄が降りかからないように、最悪の状況も想定しながら迷宮を進まないと危険だぞと彼女は伝えてくれた。

 その先輩として伝えてくれた助言が、俺は素直に嬉しかった。


 だからかもしれない。

 自然と穏やかな口調で言葉が溢れてきたのは。


「ありがとう、気をつけるよ」

「よ、よせよ!

 別に礼を言われるようなことじゃねぇし!」

「あらあら。

 バルバラが頬を赤らめるなんて、乙女心がまだ残ってたのね」

「う、うるせえよ!!

 それにトーヤならその可能性にも気づいてたろ!」

「素直じゃないですね」

「ケッ!」


 ぷいっと視線を外しながら、ばつが悪そうにバルバラは捨て台詞を吐いた。


 確かにその可能性を俺も考えていた。

 むしろ、直接的に命を狙ってくる輩がいる。

 そういった連中はたとえ同じ階層が大量に用意されようと、執念で探し当ててくるんじゃないだろうか。


 もしかしたら何か法則があるのかもしれない。

 だがそれを俺が知るには知識が少なすぎる。


 単純な話、迷宮内なら他の冒険者を気にせずに戦いやすい。

 これは相手も同じ条件ではあるが、地形も考えればここのほうがずっと安全だ。

 見通しのいい場所なら奇襲も避けられるから、林で対峙するよりも遥かにいい。


 ……まぁ、今はそれほど集中しなくてもいいはずだ。

 子供たちが修練できそうな場所へ進むことを優先するべきだから、まずは俺が伝えなければいけないことを言葉すればいい。


「それでもありがとう、バルバラさん」

「――ッ」


 俺の言葉に口をぱくぱくと開閉するバルバラを白い目で見ていたコルドゥラは、半ば呆れたように話した。


「……なんだ?

 お前、マジでトーヤにホレたのか?」

「ち、ちげぇし!!」

「分かった分かった。

 んじゃ、アタシら先に行くからな。

 ロビーで会えたらメシでも食おうぜ」

「あぁ」

「ほれ、行くぞ。

 乙女のバルバラちゃん」

「ちょ!? 誰が何だと!?

 って、おい! 何掴んで! お前ら! 引っぱんじゃ――」


 バルバラの言動を無視しながらボス部屋へ連行するように、コルドゥラたちは進んでいった。


 しばらくして扉が閉じられると声が耳に届かなくなった。

 防音もしっかりできているんだなと、妙なところで感心する俺がそこにいた。



 ……ロビーで会えたら、か。

 彼女たちには悪いが、こちらの件がすべて片付いてからになるだろうから、次に会えるのは随分と先になりそうだな。

 少なくとも一ヶ月じゃ落ち着かないだろうから、待たせることになりそうだ。


 そんなことを考えていた俺は子供たちに向き直り、20階層を守護する魔物についての話を始めた。


 そう時間もかからずに扉の色は戻るだろう。

 子供たちもそれを感じ取っていたようだ。


 少ない時間の中で作戦を巧く立てられるのかを見られそうだな。

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