強くなるために
朝食後も問題なく進み続け、1時間ほどで20階層にやってきた。
構造は10階層と変わらないようで、正面奥にはボス部屋へ行く扉がある。
だが、どうやら先客がいるようだ。
先日の一件のようなことにならなければいいが……。
こちらに視線を向ける5名の冒険者。
全員女性ではあるが、随分と鍛えた剣士がいた。
遠目で見ても俺の3倍は筋肉量がありそうだ。
力でごり押しして叩き潰すパワータイプか。
「……さて、どうなることか」
「今度は大丈夫ですよ」
ぽつりと呟いた俺にリーゼルは答えた。
視線を向けると笑顔でこちらを見ていた。
その表情に納得していると、筋肉質の女性は右手を上げて声をかけた。
「おー! リーゼルじゃねぇか!
随分珍しいところで逢うな!」
「お久しぶりです、バルバラさん」
「なんだ?
結局お前も迷宮入りしたのか?」
……どうやら俺の世界とは違った意味で使われている言葉みたいだな。
いや、もしかしたらこの場所限定の俗語かもしれないが。
「少々特殊な事情もありまして。
今は強くなるために進んでいます」
「へぇ、やっとやる気になったってか?」
槍を右肩にかけながら、ぎらついた目つきの女性は答えた。
大剣に槍、剣と盾に弓、ヒーラーのチームか。
武器種だけで言うとバランスは取れているが、なんだか違和感があるな。
殺気立ってるようにも思える気配を纏っている。
……まさか……いや、この気配はそうなんだろうな。
弓士と騎士風の剣盾持ちが冷静なところを判断すれば、おおよそ答えは合っているはずだ。
……となると、非常に問題のあるチームに思えてならなかった。
「お察しの通りだよ。
あたしがサブリーダーで、こっちのカルラと一緒に3匹のイノシシを制御するために日々奔走してるんだ」
「……あはは……」
呆れながら答えるボーイッシュな弓士と、苦笑いしか出ない騎士風の剣士がそこにはいた。
バルバラを中心として結成されたチームではあるが、こと戦闘となると周りが見えなくなる彼女とコルドゥラの前衛に加え、本来ヒーラーであるはずのベティーナもMPが切れた瞬間に最前線へ向かって突っ込む困ったパーティーなんだと、弓士のアストリットと剣士カルラは答えた。
そもそもヒーラー職に向いていないベティーナは攻撃魔法ばかりを撃つらしく、回復魔法まで手が回らないこともあって薬代が馬鹿にならないそうだ。
おまけに見目麗しい淑女のような姿からは想像もつかないほどの気性の激しさを持つ彼女は、所持している鉄製の杖で殴りつけることも頻繁に行う戦い方をする。
彼女を知る冒険者からは、"回復魔法を使わない撲殺ヒーラー"の異名をつけられているらしい。
はっきり言って、俺の仲間にいればその精神を叩き直しているところだが、さすがに人様のパーティーにまで口を出す気にはならなかった。
世の中には変わった人たちがいるもんだ。
そう考えるだけに留めておこうと思う。
「……あたしらがどんだけ言っても聞きゃしないんだ、このイノシシどもは。
何食ったらそんなに血の気が多くなるんだか、研究して欲しいもんだ……」
「思えばバルバラは出会いがしらに男冒険者を殴りつけてたし、コルやベティも似たような性格だから危なっかしくて私は放っておけないよ」
呆れたように答えるアストリットとカルラ。
しかし、まともな神経に思える彼女たちの言葉に強く反論をした。
「あぁ!?
ありゃカルラに色目使ってた馬鹿男が全面的に悪いんだろうが!
それにちょっと小突いただけでアタシはなんもしてねぇよ!」
「相手を壁ごと吹き飛ばすことを"小突いた"とは言わない。
あれでどれだけ修理費を取られたと思ってるんだよ」
「バルバラは悪くねぇ。
女を舐めてるからそうなっただけだ。
アタシなら多額の慰謝料を請求して身包み剥がすね」
「それにバルバラの対応は優しすぎる、いえ、手ぬるかったわ。
私ならさらに顔をボコボコにして、二度と舐めた口を聞けなくするけれど?」
「それも考えたんだけどよ、最近の憲兵はやたらとうるせぇからな。
どうせならバレないように闇討ちしとけば良かったな!」
「「お前ら野盗と同じ言動してるからな!?」」
良識人が2名いても、少数派のチームになっているな。
今後も相当苦労しそうだな、アストリットとカルラは……。
なんだかんだ楽しそうに笑うパーティーに相性の良さは感じるが、少なくとも俺の周りにはそういった人物がいなくて安堵した。




