表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十二章 静と動
431/700

必要とあらば

 しかも悪いことに、これは極々ありふれた初級攻撃魔法だ。

 それをこれだけの威力に高めた理由は俺のせいでもある。


 どうやらエルルとフラヴィが練習していた、粗が目立たない完成度の高い魔法を彼女なりに研究していたようで、俺の知らぬ間に使えるようになっていた。


 いわゆる彼女は天才肌と呼ばれる類らしく、一度完成させた魔法を人に教えることも、最初に使っていた状態の魔法も出せなくなったと彼女は笑顔で答えた。

 基礎からしっかりと学び、徐々に技術を高めていく俺とは対照的に、どうも彼女はそういったところも浮世離れしているのかもしれないな。


 そしてもうひとつ気付いたことがある。

 エルルは防御重視の魔法を使うため、攻撃魔法でも威力は低めに抑えている。

 だがリージェは攻撃魔法を使うことをためらわず、必要とあらば確実に放った。


 それは、未だ仮説段階だった"粗をなくし、完成させた魔法"の攻撃力がどれほどの威力を持つのかをはっきりと知らしめる結果となる。


 俺の推察は正しかった。

 しかし、威力が強すぎて使い勝手が悪くなった。

 魔法壁でも砕けない威力を持つんだから、攻撃魔法でそれをすればある程度の威力は予想していたが、まさか対象を貫くとはさすがに想定外だ。


 これではとても人相手には使えない。

 ためらう必要もないし、いざとなれば使う覚悟も持つべきだ。

 だが情報を入手するためや、憲兵詰め所に連れて行くことを優先しなければならない以上、相手の命を奪う行為はどうしようもなくなった時の最終手段となる。


 俺としては相手の行動を阻害する魔法や、状態異常を与えるスキルのほうが遥かに使い勝手がいいと思えてしまうんだが、そう簡単に便利な魔法を覚えられるわけもないし、これに関しては本人の持つ属性にも大きく左右されるだろうから、あまり言えることでもないか。



 レヴィアはレヴィアで、肉体的な強さがありえないほど強い。

 並みの防御力ではないどころか、筋力も人が持つそれを遥かに凌いでいた。

 瞬発力や判断力も一線を画す彼女の強さは、すでに俺の理解の範疇を超える。


 ……要するに、ふたりとも通常の魔物相手に実戦経験を積ませるには強すぎる、ということになるな。


 元々レヴィアは水龍だし、あの大きさが凝縮されたような存在だから、凄まじい力を発揮するのも分からなくはない。

 だがリージェは、少々厄介な魔法を使う。

 "使いどころの難しい魔法を使う"、といったほうが正しいか。


 彼女はエルルとはまた違う意味での天才肌だ。

 どちらも努力を怠らず、力を振りかざすことはない。

 冷静に状況を見極められるリージェと比べれば、エルルはまだ幼い考えを持つことも多いが、子供である点を考慮すればどちらがいいというものでもない。


 しかし、魔法の威力をエルルのように抑えられないのは厄介だ。

 彼女自身も練習を繰り返しているみたいだが、体得には至らないのが現状だ。


 だからこそ後方で待機させつつ、冷静に判断を下せるサブリーダーとしての役割に就いてもらおうと思っているんだが、現段階で彼女が子供たちとの実践訓練に参加するとなれば話は大きく変わってくるだろう。


 まさか、こうも実力差が明白に分かれるとは考えていなかった。

 何がリージェの根源となっている力なのかは分からないが、もしかしたらフラヴィのように俺の影響を受けていると考えるのが妥当なのかもしれない。


 "エスポワール"

 俺が持つユニークスキルの中でも特に異質なこれは、対象者を完全回復させてしまうほどの凄まじい効果を持つ。

 それは、枯れ落ちる寸前の大樹を若々しく蘇らせるほどだ。


 生命力ですら快復させてしまったこのスキルの影響を受けているからこそ、今の彼女は他の追随を許さないほどの威力にまで初級攻撃魔法を極めて(・・・)しまったんじゃないだろうか。


 それもこれも、すべては"空人"たる俺の責任だ。

 リージェを救うことができたのは誇らしいし、後悔なんて微塵もない。

 もう一度過去に戻れたとしても、俺は同じように彼女の治療を試みるだろう。


 だが、そうすべてが上手くいかない。

 子供たちのパーティーメンバーとして戦闘に参加させることすら難しくなっている現状でリージェにできることは、やはり後方に下げて戦況を見極めてもらえるようにするくらいしか、今の俺には思いつかなかった。



 美味しそうにサラダを食べるリージェと目が合い、にこりと笑顔を向けられた。

 まぁ、楽しそうだし、強いぶんには悪いことばかりじゃない。


 使い方次第で良くも悪くも変わるが、彼女なら問題ないからな。

 それほど思いつめるようなことではないのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ