そのための力
子供たちが少し離れている間にレヴィア、リージェ、リーゼルの3人に話した。
その内容はリーゼルを驚愕させるものではあったが、さらなる強さを手に入れられる衝撃のほうが彼女にとっては大きかったようだ。
これまで様々な条件で修練を続けていたことは、ごくわずかに気配を感じさせるだけの強化魔法を見せたあの模擬戦からもはっきりと分かった。
彼女のひたむきさと合わせて考えれば、相当の経験を積んだことは明白だ。
問題は、彼女が続けてきたやり方が正しいのか、という点だ。
修練自体に問題はない。
それどころか、彼女が独自に見つけ出したマナを体に薄く張る状態を維持し続ける方法も間違いではないと思えるし、これ以上ないほど効率がいいと感じている。
ただしこれは、あくまでも初期段階での方法になると俺は思っている。
ここに気付けたのは、俺も似たような技術を体得しているからだ。
もちろんその性能に大きな違いはあるし、マナを使用しない点を考慮すれば、俺が使う技術とはまったく別の力と言い切れるだろう。
しかし修練方法とその効果はとてもよく似ていることに、俺自身も驚いた。
もしかしたら、人ができるものの限界にも関係しているのかもしれない。
どちらも極めれば相応の力となる"強化"という一点から考えると、それほど人は異質な能力を編み出したりしないもので、たとえその入り口は違ったとしても、どこか似通った力に帰結するものなんだろうな。
「――ということだ。
この話を子供たちの前でしない理由は、リーゼルの師匠が強化魔法の体得以上を教えなかったことと繋がるはずだ。
つまりは強化魔法に頼らない、自身の身体能力が必要不可欠になる」
「なるほど。
それで子供たちには話せない、ということだな」
「あぁ、そうなる。
3人の中でも十分な強さを持つのはブランシェだけだ。
フラヴィは俺の知識を継いでいるからそれほど影響はないと思うが、エルルに今の段階でこのことを教えれば、ふたりとの成長の差が顕著になるのは間違いない。
あの子はまだまだ上を目指せる資質を感じるし、気概も目を見張るものがある。
こんなところで立ち止まってしまえば折角の強化魔法も半減以下の効果しか見せないし、それが意味するところはエルルの命にも関わりかねない。
最低でもフラヴィが持つ身体能力の4割程度は必要になると俺は考える」
何よりも魔法の得意なエルルが身体強化魔法を体得すれば、それに頼ってしまう危険性すら考えられる。
彼女が教えてくれたものは、それを感じさせるほどの効果を持っているんだ。
「強化魔法を使用中、体から溢れたマナを体内へ戻し、その状態を維持する。
たったそれだけのことで、すべての魔力を力として具現化できるだろう。
それには自身が持つ肉体の強化という下地が必要不可欠になるはずだ。
だがそれを持たずに使えば、暴れ馬のように魔力が抑えきれず、体も巧く扱えないどころか溜めたマナを暴発させかねないと俺は推察している。
しかし、魔力のすべてを己が物とできれば、非常に強力な武器になるだろうな。
込めたマナ次第で何段階にも肉体的な強さがブーストされる強さを手にできる」
「それで今は私たち3人だけに話してくださっている、ということですね」
「そうだ。
現段階では、あの子たちに必要な力だとは思っていない。
だが、できるだけ早く体得したほうがいい力ではある。
リージェもレヴィアも身体能力的には問題ないし、精神的にも大人だ。
性格上、力を振りかざすことは絶対にしないから、子供たちを護る力のひとつとして体得してもらえたらと思っている。
交渉の場に子供たちを連れて行くわけにはいかない。
だから、その時はふたりに子供たちを見ていて欲しいんだ」
「そのための力か」
レヴィアの言葉に俺は短く答え、頷いた。
必要最低限の力では護りきれない可能性がある。
あくまでも想定の範囲内では必要のない過ぎた力でも、後悔してからでは遅い。
できるだけ対応策は万全に近づけるべきだし、彼女たちなら俺も安心して交渉の席に着ける。
これは俺の甘えかもしれない。
でも、最悪のケースを考えれば、彼女たちの力を借りたいのが本音だ。
「ふむ、理解した。
ならば我も、その技を体得しよう」
「そうですね。
私も努力をさせていただきます。
……後悔は、一度きりで十分ですから」
「……ありがとう」
俺はそう言葉にするだけで精一杯だった。
「見て見て、トーヤぁ!
鉱石みたいなのドロップしたよ~!」
「あぁ、いま行くよ」
黒い塊を持ちながら楽しそうに手を振るエルルに微笑みながら、俺たちは3人のところへ向かった。




