興味は尽きないな
ドロップ品である刃の欠片と魔晶石をブランシェから受け取り、収納する。
その様子を見ていたエルルは、ふと思ったことを言葉にした。
「壊れてるっぽいけど、さっきの欠片って何かに使えるの?」
「俺も詳細は知らないが、武具の生産か強化素材になるはずだよ。
けど迷宮で手に入る素材はこの場所でしか使えないと言われてる。
武具や装飾品にまで完成させればダンジョンの外でも使えるらしいが、素材や完成前の武具は極端に脆くなるって話だな」
収納した短剣の破片と思われる物も、このままでは使えない。
アイテムに書かれた説明文も以前手に入れた欠片と同じだった。
目に見えない"何か"が制限としてかかっている素材なんだろうな。
インベントリを調べてみたが、やはり別枠で収納されているようだ。
目録のようにアイテムリストを脳内で把握できるこのスキルは、名前通りの仕分けができるだけでなく、ある程度使い手の自由に編集することが可能だ。
同じアイテム名だと紛らわしいので"迷宮用カテゴリー"を製作し、魔晶石やこれまで入手したアイテムをまとめておいた。
この目で見た姿をそのままサムネイル画像として登録できるので、名前やどんなアイテムかを一瞬で理解できて非常に便利だ。
こうすることで今後ダンジョン内で手に入るアイテムの種類や個数を確認しやすくなっただけでなく、魔晶石のような同じ名称でも大きさや価値が違うものを区別することができる。
魔晶石に関しては、ギルド職員にすべてを渡すことでベルツ硬貨と交換してもらえるんだが、俺の性格が影響してるせいか、どうにもまとめたくなるんだよな。
几帳面ってほどでもないはずなんだが、インベントリに放り込むだけじゃ散らかるし、整頓するのはいいことだよなと、自分のしたことを正当化している俺自身に自然と笑いがこみ上げてきた。
エルルの質問に答えながら片付けを続ける俺に、リージェが訊ねた。
「お話に出た"武具の生産と強化"は、具体的にどう違うのですか?」
「簡単に説明すると、魔物素材と金属なんかを使うことで新しく武具を作り出すのが"生産"で、既存の武具をさらに強くすることを"強化"と呼んでいるそうだ。
真っ直ぐな木の棒の先端に刃物をつけると槍が作れるように、魔物が落とした素材をいくつか集めることで新たな武具を作ったり、その素材を利用してより強固な武器にしたりすることができるって聞いてるよ」
これはラーラさんに学んだ知識によるものだ。
魔導具生産の基礎知識になる"魔法工学"を学ぶ一環として、一般的な魔物素材を使った武具の生産や強化と、ダンジョンにおけるそれらの違いを教えてもらった。
魔物が落とす素材の多くは、粉々にしたり溶かしたり別の素材と混ぜたりと、様々な状態に変化させてから利用されるが、そこに特殊なものを加え、核となる魔石に魔力を込めて作り上げるのが魔導具になる。
しかし、オリジナルの魔導具を作るには相当の技術と知識、何よりも長年に渡る経験が必要とされ、ユニークアイテムを作り出すだけでも相当苦労をすることになるそうだ。
この国には世界最大のダンジョンがあることもあって、自作できるほどの魔法工学を学ぶよりも迷宮内で魔導具を手に入れたほうが圧倒的に労力がかからない。
これには当然のように自身の強さと信頼できる仲間が必要不可欠になるが、迷宮外のエントランスホールにある掲示板にはパーティー募集が数え切れないほど貼り出されているみたいだし、やはり魔導具は自分で作り上げるよりも手に入れるものという認識が、バウムガルテンでは一般的になっていると言えるだろう。
個人的に興味深いと思えるが今はそんな状況でもないし、折角ラーラさんに学んだ知識でもあるんだが、魔導具を自作するのは相当先になるだろう。
どの道、必要アイテムも不足してるから作れないんだけどな。
「……魔法工学か」
「レヴィアは興味あるのか?」
「ふむ。
魔導具がどういったものか知らぬが、興味は尽きないな」
ああいったものは探究者になれそうな人じゃなければ続かなさそうだ。
その点レヴィアは思慮深いし、俺とは違って我慢強いからな。
むしろ彼女のほうが向いているのかもしれない。
根気が必要だと思えてならない技術だが、彼女はこの中の誰よりも長生きするだろうし、気長に研鑽を積めば10年くらいで自作のレジェンダリーが作れそうな気がした。
「なら、道すがら魔導具の話をするよ。
警戒をしながら別のことをするのも修練になるし、ここは11階層だからな。
あまり深く潜ると周囲警戒に集中したほうが良くなるだろうから、今がいい機会だと思うし」
「ふむ、それは楽しそうだな」
笑顔を見せながら答えるレヴィアだが、俺も同じことを思っていた。
魔導具作成自体に興味がないわけじゃない。
まったく知らないものの中でもこの技術は地球上に存在しなかったものだ。
レジェンダリーは難しくても、せめてユニークくらいは作ってみたいと思えた。
いずれは自作装備で子供たちを着飾って、なんてのは夢のまた夢の話だな。




