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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第三章 掛け替えのないもの
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遙かに大切なもの

 情報提供者の風体をディートリヒは伝えるが、実際にどうなるかは憲兵次第だ。

 メモを取るローベルトを見ながら、俺は気になることに意識が向いていた。


 彼らとの訓練や、盗賊団との対人戦。

 特にボスとの戦いで体感したものとの違和感を強く覚えた。

 言い換えるなら、この世界の住人と俺との間にある差だ。


 レベルと呼ばれるものや能力を数値化するシステム。

 スキルや魔法を行使することで、実力以上のものを出してしまう現実。


 これらすべてが物語る。

 この世界に生きる人々の弱点に。

 ディートリヒ達も含め、体を鍛えているはずの冒険者であろうと、その実力は低いと言わざるをえない。



 確かに俺は、客観的に見れば弱くはないだろう。

 魔物や盗賊を倒せる強さがあることも理解できる。


 だがそれは、俺がしっかりと下地を積んでいるからだ。

 訓練法や研鑽を重ねた時間、意識次第でいくらでも変わってくるが、それらを踏まえた上で断言できる。


 冒険者を名乗る存在だけじゃないだろう。

 恐らくは憲兵や兵士にも言えることだと思えた。

 彼らの実力を見たわけじゃないから正確には言えないが、まず間違いないと俺はどこか確信を持っていた。

 その理由も、異世界人である俺になら理解できる。


 これは、レベルと能力値の概念があるせいだ。


 この世界の住人は、魔物を狩り続ければ強くなると勘違いしている。

 レベルとスキルが身体的な能力に関係することも間違いではないんだろう。

 特にスキルは、肉体的なもの以上の効果をもたらすのも事実だ。

 それをライナーは狙撃という方法で示していた。


 しかし、スキルとは武器のようなものだと思っていた。

 どう使うかも人次第で変わる武器のようなものだと。


 だが実際に戦うのは人だ。

 武器はあくまでも道具にすぎない。

 それをどう使うか、どれだけ活かせるかは、高めた技術次第で劇的に変わる。


 俺と彼らの持つ強さの差を力量差という言葉で表現するのなら、それは人の鍛錬によって培われるものが何よりも意味があるとしか言いようがない。

 そこには魔物を倒すという過程は入らず、また別の話になる。


 ここに来るまでの間、俺はディートリヒ達のステータスを教えてもらった。

 彼らが空人に嘘をつけない以上、間違いではない驚愕の能力値を。



 ディートリヒ・アルムガルト Lv.14

 HP28

 MP8

 攻撃12

 防御15

 魔力6

 技量7


 <スキル>

 剣術 城砦 シールドバッシュ パワーチャージ 集中 ヒール



 中級スキルである城砦とシールドバッシュ、そしてパワーチャージ。

 それぞれ20秒の間、盾による防御と攻撃、突進性能が向上する。

 集中も同じ時間、集中力がわずかに上昇する初級スキルらしい。 


 フランツはディートリヒと違い、攻撃寄りの戦士。

 ライナーはその中間で、エックハルトは魔力と防御が高めだった。

 それぞれ個性を伸ばしたステータスとスキルを持っていたが、防御寄りでバランス型の彼と比べれば若干見劣りする能力値だと俺には思えた。



 この話を聞いた時、正直俺は戸惑った。

 攻撃は俺の4倍、防御にいたっては5倍もある。

 もっとも防御は攻撃を受けた際に影響する数値らしいが。


 おまけにこの世界での最大レベルは20。

 99でも100でもなく、たったの20で成長が止まる。

 ここに驚くなという方が無茶な話だ。


 中でも見るべき場所は攻撃12。

 これだけ数値に開きがあっても俺が圧倒した。

 レベル1という初期値の俺が、経験者を4人も相手にして、だ。


 当然、盾での防御や、ダメージとして直接体に受けたわけじゃない。

 あくまでも俺は剣で攻撃を捌いただけにすぎない。


 それでも4対1で圧倒したという事実が意味するもの。

 そしてランクA冒険者がふたりもいて、あの程度の(・・・・・)男に負けた理由。


 俺が強いんじゃない。

 この世界の住人が弱いんだ。


 基本的にこの世界は、レベルで個々の強さが表示される。

 だがそんなものは数値上のものにすぎない。

 本当に実力差がレベルや能力値によって大きく変動するのなら、俺が盗賊相手に圧倒されていてもなんら不思議ではない。


 これが意味するところは、致命的な弱さに繋がる。

 この世界の住人は間違った鍛え方をしている。

 もっと言えば、強くなる方法を履き違えていることは確実だ。


 その上で多くの者達が、あの馬鹿盗賊のように慢心しているんだ。

 もしかしたら、ディートリヒ達のような冒険者は少ないのかもしれない。


 多くの、いや、ほとんどの者が、これまで気づかなかったんだろう。

 恐らくはそれも俺が異世界人だからなのかもしれないが。


 あの馬鹿盗賊は石ころを投げつけた程度で、本気で勝てると踏んでいたのか?



 ……なんて世界だ。

 レベルなど、ただの目安にすぎない。

 もはや飾りとさえ言えるほど形骸化されたものなのかもしれない。

 そんなものよりも遙かに大切なものがある。


 逆に言えば、レベルが低くても強者と渡り合うだけの力を持つ可能性がある。


 断定することは危険だし、鍛錬もこれまで通り続けるべきだ。

 しかし、それでもこの世界の住人よりは遙かに高みへと行けるだろう。

 それをこれまでの短い時間で確信した。


 同時にこれらが意味することは、ディートリヒ達の命に直結することになる。

 果たしてこの世界の住人である彼らに伝えていいものなのか。

 話したところで正しく理解してもらえるかも分からない。



 いや、彼らの生死に関わる重大なことなんだから、ためらわずに話すべきだ。

 ディートリヒ達と別れる前に、必ず話さなければならないな。


 なによりも、俺自身が彼らを死なせたくないからな。

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