持ち始めたと
迷宮の1階層は、どうやら本当に初心者向けのようだ。
それも、戦うことすら始めたばかりの者を対象としているみたいだな。
始めにゴブリン1匹が出て以降、かなりの距離をあけて2匹が出現し続けた。
ブランシェ、エルル、フラヴィと順に戦い、リージェ、レヴィア、リーゼルと問題なく倒したところで、先ほどから気になっていた疑問を訊ねた。
「……いつから"いい結果を出した人だけがデザートをもらえる"って決まりになったんだ?」
「うぇ? 違うの? ごしゅじん?」
「あれ? そうだっけ?」
「ん~?」
目が点になりながら首を同じ方向に傾ける子供たち。
その仕草はとても可愛いが、俺はそんなことを言った覚えもないし、そんな意地悪をするつもりもない。
残念ながら大人たちもそういった認識を持っていたようで、いつの間にか自然と決まっていた暗黙のルールに似た勘違いだったようだ。
「まぁ、いいさ。
結果が出なかったからデザートを食べさせない、なんてことは絶対にしない。
だからといって戦いに気を抜いたり、手を抜いたりすれば注意するが、これまで頑張らなかった子はいなかったことを俺はしっかり見ているよ。
それに、食事はみんなで食べたほうがずっと美味しいからな。
だったらご褒美のデザートだって、みんなで食べるのは当然だろ?」
その言葉に、ぱぁっと明るくなる子供たち。
そんなに俺の作るデザートは美味いのか、なんてのも、どうやら愚問のようだ。
見越していたかのように、リーゼルは答えた。
「トーヤさんのお料理はとっても美味しいですからね。
中でもデザートは、最高級料理店でも食べられないものばかり。
一品一品に幸せをかみ締めながらいただいていますよ」
「うむ。
主の作るものはどれもが魔法のようにも思えるが、我は甘い物を好む。
以前に食した"ふらんぼわーずのしゃーべっと"、だったか?
あれは風味も甘さも格別だったと記憶している」
「そうですね。
あの香りは得がたいものを感じました」
脂肪分を加えていないから、正確にはシャーベットじゃなくてソルベになるんだが、とても幸せそうだしどうでもいいことだから言わなくてもいいだろうな。
それにしても、やはりふたりは酒を好む傾向があるな。
正直、呑む気にはならないが、そのうち呑ませてもいいかもしれない。
特にレヴィアは凄まじい大きさの龍が凝縮された姿で、その見た目どおりの身体をしてるみたいだから、酒に酔うこともないと予想している。
酔っ払った彼女の姿なんて想像もつかないが、レヴィアを酔わせるなら国中の酒樽を空にしてもまだ足りないかもしれないな。
時折くねるように道が続き、再び遭遇したゴブリン2匹を今度はブランシェが仕留めた。
右薙ぎから左薙ぎに攻撃をするその隙のない姿はまるで連撃を思わせるが、ステップをしなければ届かない位置への移動と瞬時に2匹の敵へダガーを通したその技術は、特質的とも言える彼女の身体能力があってこそだろう。
今回も相手に斬られたことを理解させる前に終わらせたようだ。
同時に光の粒子になるその光景を見て、単純に凄いという発想は湧いてこない。
……凄まじい速度で動くんだな、ブランシェは。
俺との模擬戦で見せた速さは限界じゃなかったのか。
まだ体の使い方が十全じゃないみたいだな。
いったいどれだけのポテンシャルを秘めてる子なんだ……。
……これは、魔力による身体能力強化を身につけたら、俺も力を使わなければ体が反応しないかもしれないな。
魔法による強化がどれくらいまでの効果を見せるのかは分からない。
リーゼルもそれほど力を込めて動いたことは、これまで一度もないらしい。
必要になる敵もいなかっただろうし、何よりも過ぎた力だと彼女は断言した。
しかし、今後は必ず使うことになるだろう。
早いうちに全員が強化魔法を体得したほうがいい。
この力は俺が体得していたものとは別枠のエネルギーを消費する。
いわゆる魔力を使うことで強化ができる点は非常にありがたい。
これを最大限利用すれば、俺が体得していた技術も違った意味を持つ。
これまではそれほど必要としていなかったが、この力は魔法やスキルの修練にも凄まじい効果を見せるようになるのは間違いない。
ここにきて随分と存在価値が上がったユニークスキル。
"MP自然回復"という名のチートが、凄まじい効果を持ち始めると確信した。




