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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十二章 静と動
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練習として

 まず視線が向いたのは、暗めの白へ灰をわずかに混ぜたような色の回廊。

 続いてしっかりと手入れをされた壁と天井だった。


 これは、どう見てもダンジョンというよりは立派な建造物の廊下に思えてならないが、それ以外は燭台などは一切見られなかった。


 しかし広い空間でありながらも、明るさはしっかりと感じる。

 圧迫感のような、息が詰まる感覚もなさそうだ。

 実際に見るのと聞くのとでは、随分と違った印象を強く感じるものみたいだな。


 そしてもうひとつ、気になることがあった。


「280メートル先にゴブリンが1匹いるな」

「……すごい、また範囲が伸びてる……。

 でもでもトーヤ、1匹だけなの?」

「確認できるのは1匹だけだな。

 周囲には何も感じないところを信じるなら、冒険者もいない場所みたいだ」

「ふむ。

 つまりは練習用の階層、といったところだろうか」

「そうだろうな。

 1階層は特殊らしいし、これなら子供連れでもある程度戦えるならクリアできそうな気がしてきた」


 俺たちは足を進めながら、そんなことを話していた。

 しかし、今更ゴブリン1匹では、足止めにすらならない。

 蹴っ飛ばしても終わるし、リージェならひっぱたくだけでも十分だ。

 リーゼルはもちろん、レヴィアだと過剰すぎるし、子供たちでも一撃で倒せる。


 本当に初心者用の訓練ができる場所のようだな。

 それも安全に戦えるだろうと思える、脆そうな棍棒を持っていた。

 あんなものじゃ、地面に叩きつけただけでも壊れそうだ。


 おまけにこれまで出遭ってきたゴブリンと違い、気配に覇気がまるでない。

 10メートルも近づかなければ見えない視力と遅い反応速度に、これじゃたいした練習にはならなさそうだと残念に思えてしまう俺がいた。


 折角なので、ブランシェの練習として戦ってもらった。


 風のようにゴブリンの横を通り抜ける。

 どうやら斬られたことすら気がついてないようだ。

 そのまま光の粒子となって、空に溶け込むように消えた。


「どうだ?」

「んー、体の調子はいいんだけど、なんか手応えがなくて変な感じかなぁ」

「ゴブリンだからこんなもんだろ。

 だけど油断せずに進もう」


 俺の提案に頷く仲間たち。

 何かが起きた場合の想定をするのは悪いことじゃない。

 気を張りすぎるのは良くないが、それでも気を緩めすぎることは避けるべきだ。


 *  *   


「"小さな火の玉スモール・ファイアボール"!

 ……ここ! "破裂しなさい(エクスプロージョン)"!!」


 ゴブリン2匹の50センチ手前で、前に出した右手を握り込むエルル。

 放った小さな火の玉を破裂させ、その衝撃波で相手を吹き飛ばす魔法だ。


 模擬戦で俺がフラヴィを抱きかかえていた時から悩み続けていた彼女が独自に編み出したもので、火の威力を極端に押さえ込み、魔力を使いながらも物理的な(・・・・)衝撃が出る"特殊攻撃魔法"になる。

 常識すら霞んでしまうエルルのオリジナル魔法は、使用者の手腕次第で使い方と効果を極端に変えることが可能となっていた。


 エルルの編み出したものは、すべてがユニークスキルのように思えてならない。

 威力、効果、燃費ともに、並みの初級魔法どころか中級魔法でも相殺できないほどの完成度がある。

 それもひとえにフラヴィとしていた、文字通りの魔法強化訓練の賜物だろう。

 最近ではブランシェの身体能力が目立って見えていたが、エルルはすでに並みの魔法使いを遥かに超える強さを手にしている。


 あとはじっくりと魔法に磨きをかけながら実戦経験を積み、身体能力魔法を巧みに使いこなせれば、ランクS冒険者の近接職ですら単独で圧倒できるだろう。


 未だ可能性が見える、などといった曖昧なものではなく、エルルはそう遠くないうちに実現させると確信した。


「どう!? 今の魔法!?」

「文句なく、いい魔法だ。

 力加減もコントロールもしっかりできていたし、火が極端に抑えられていたから相手が燃えることもなかった。

 さらに言えば、今の魔法は様々な応用が利きそうな利点が見えるものだったよ」

「やったぁ!

 あたしもご褒美(デザート)食べられるぅ!」


 ……そんなつもりで頑張ってたのか……。


 おかしいな。

 誰かがいい結果を出せば、適当な理由をつけてみんなにあげていたつもりなんだが、その認識は俺だけだったんだろうか……。


 いつから及第点が取れた子のみ、デザートが配られる決まりになってたんだ?

 誰かにあげなかったことなんて、これまで一度もないんだが……。


「つぎはふらびいなの!

 がんばって、おいしいでざーと、もらうの!」


 やる気満々のフラヴィが放った言葉に、俺は訊ねる機会を失った。

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