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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第三章 掛け替えのないもの
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難しいんだな

 不思議と嬉しそうにも思える穏やかな瞳が真面目なものに変わり、こちらへ向き直って問題となる話を始めた。


一昨日(いっさくじつ)、厄介な情報がギルドに飛び込んでの。

 (くだん)の盗賊団が、大商人であるベッケラート氏の乗る馬車を襲撃したのだ」

「ベッケラートっていやぁ、シェルツ商会長の右腕って言われてるやつか?」


 シェルツとは、周辺国の貴族にも多くのコネクションを持つ豪商らしい。

 彼が一代で興したシェルツ商会は従業員1200人を抱える巨大商会で、この町を中心とした交易をするだけじゃなく、町の中央に16もの店を構えている。

 日用品から貴族御用達まで幅広く商品を扱っている凄腕の大商人なのだとか。


 そんな彼を支え、時には意見して商会を正しい道へと導く。

 質実剛健で、多くの慈善行為も笑顔でするような町の顔役とも言われるのがベッケラート氏らしい。


 だが、それだけでは話が終わらないようだ。


「そこには手練(てだ)れのハーラーとタルナートが護衛任務に就いておった」

「……お、おいおい……そのふたりはランクA冒険者だぞ……」

「不意を突いたのだろうと予想できるが、それでも倒したことに違いはない。

 ランクAをふたりと私兵を4人も返り討ちにし、ベッケラート氏を殺害したことで懸賞金が跳ね上がっての。危険度Aへの格上げと捕縛から討伐対象に変更した上で、憲兵を含む討伐隊を派遣するつもりでお主達を呼び戻したのじゃが、時すでに遅く、残念ながらもう帰らんかもしれぬと思っていたところだったのじゃよ」

「……なるほどな。そりゃ僥倖って言葉も出るか……」

「じゃが、よく戻ってくれたと心から思う。

 お主達まで失えば、この町の冒険者に更なる不安を与えたじゃろう。

 ……個人的にも、話し相手がいなくなるのは寂しいからの……」


 ローベルトは視線を窓の外に見える空へと向けて話した。


 どうやら町ではとんでもない事態になっていたようだ。

 ランクA冒険者とは、それほど簡単になれるものではないと聞いている。

 難易度を含む依頼達成数や、魔物の討伐数だけでは到達できない。

 そこにはギルドからの信頼と、これまでなしてきた実績が大きく関係する。


 そんな彼らが返り討ちになった事実は、瞬く間に広まったのだろう。

 商会に関わる誰もが驚き、冒険者達は血の気を引いたと思われた。


 そういった存在なのだろう。

 冒険者の中でも一流と呼ばれるランクAとは。


 先ほど1階で感じた視線もそういう意味なのだろう。

 盗賊捕縛依頼を受けたと噂された彼らの生還に、驚きながら視線を向けていた。

 そんなところか。


「そこまで悪党だと、情報を吐いた下っ端盗賊も末路は変わらないな」

「そうじゃろうが、一応は伝えておくわい。

 まぁ、憲兵が聞く耳を持つこともなさそうだがの」


 それはどことなく寂しさを感じる口調だった。


 いくら盗賊だろうと、その罪は公正に裁くべきだ。

 何をしたのか、どんな思いでしたのかを含め、しっかりと調べた上で。


 それがたとえ悪党だろうと、最低限度は守られるべきものだ。

 人を殺したからといって、人権を踏み躙る行為はするべきではない。

 向こうがそれを平気でしたからといって、同じように扱うべきではない。


 そんなものはただの意趣返しだ。

 それでは悪人と同じになってしまう。

 こちらはこちらのやり方で行動しなければならない。

 同じ土俵に立つことはきっと良くないことだから。



 難しいんだな、盗賊を相手にするってことは。

 ほんの少し感情が怒りに向かうだけで、危険な世界に足を踏み入れかねない。


 それが戻れないほどの恐ろしい修羅の道を歩いていたかもしれない。

 もしかしたら、破滅にしか繋がっていないことだって考えられる。

 悪意と対峙するってことは、そういう意味を含んでいるんだろうか。


 彼らの言うように、俺はもうあんな連中と関わるべきじゃない。

 いや、彼らはそれを知っているんだろう。

 そうなった冒険者達を見聞きしているんだ。


 俺もあの時、かなり危ない立ち位置だったのかもしれない。

 そう考えたら、恐ろしくてたまらなくなった。

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