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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十二章 静と動
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そのすべての情報が

 交渉のテーブルにはデルフィーヌとルーナ、そしてリーゼルの3名がギルド職員を偽って同席することが決まった。


 男を刺激しないよう、ギルドマスターであるテレーゼは参加しない。

 この場にもいないサブマスターは、そのまま通常業務に専念することになる。


 ゼルマを含め一般職員はこの件に一切の接触を禁じ、被害を受けないよう配慮。

 しかし交渉の場に同席する冒険者達に危害が加えられた場合、その時点でギルド職員への明確な暴行と傷害、殺人未遂等の現行犯として拘束をするつもりらしい。


 罪状に関しては正直どうでもいいようだ。

 中身が凄腕の冒険者だろうとギルド職員姿の、それも女性に手を上げたとなれば、世界中のギルドが敵対する大義名分になる。


《冒険者ギルドは、世界中のあらゆる町に存在する。

 町に恩恵をもたらすだけでなく、安全性や町の存続にすら大きく関わる我々を敵に回すことは、すなわち世界中の冒険者ギルドを敵に回すことと同義だ。

 そしてそれは根強く協定関係を結んでいる商業ギルドをも同様に敵対させる。

 そうなれば、たとえパルヴィア公国の中立を保っている一派だろうと、莫大な出資をしてでも暗部撲滅に本腰を入れるだろう。

 暗殺ギルドだろうと半数以上の貴族が動けば、そう簡単には手が出せない》


 ヴィクトル氏は覇気のある声色で答えた。


 しかし、大きな問題もある。

 そのひとつが情報不足だ。


《連中の拠点、構成員の総人数、暗殺者の容姿、そのすべての情報が欲しい。

 やはり暗殺者を捕縛して情報を入手するか、貴族の男を尋問するしか手がない。

 我々にできることはせいぜい主導権をトーヤ殿から奪い、すべてはギルドの責任であると明言することと、連中の意識をこちらに向けて交渉までの暇を稼ぐこと、有能な冒険者を目立たない限界で派遣するくらいしか対処が取れないんだ。

 とても危険な役回りになるが、ぜひともヴァイス殿には尽力していただきたいと言葉にせざるを得ないのが現状なんだよ。

 心苦しいが、我々が可能な限りのサポートをさせてもらう、という程度でしか力添えができない点も容赦していただきたい》


 ……あぁ、彼は宝石の向こうで頭を下げている。

 そう思えるような深い謝意を感じさせた。


「俺は、俺のできることをします。

 幸い、俺には護るべき家族がいるので、覚悟を決めています」


 俺にはそう答えることくらいしかできなかった。


 貴族の男と暗殺者を捕縛し、暗殺ギルドとの繋がりさえ露呈させれば、事態は大きく変化するだけの意味を持つだろう。

 特にバルリングやレーヴェンタールなど、男が立ち寄った町に存在する可能性の高い拠点を一挙に制圧できるかもしれない。


 しかしそれは同時に、敵の本拠地を見つける必要性が出てくる。

 そこを潰せなければまた各地に散らばり、時間をかけて再集結してしまう。

 そうなれば、世界はより混沌としたものとなる可能性すら視野に入る。


 中途半端に潰せば、さらに狡猾な連中を生み出す切欠となるだろう。

 つまりは必ず今回の一件で根絶やしにする必要がある、ということだ。


《本音を言えば、たったひと月程度の期間を鍛えたところで、それほど大きく結果が変わるとは思えない。

 それでも、ヴァイス殿の持つ可能性と希望に縋りたく思う。

 ……こんな言葉しか出せない私を、どうか許してほしい》


 誠実な彼の声が、大きめに設けられた一室に優しく響いた。

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