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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第一章 はじまりは突然に
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空人

 "空人(そらびと)"とは、こことは違う別の場所から来た者の総称らしい。

 まるで空から降り立ったようだと思われたことから、そう呼ばれているそうだ。


 とはいえ、俺にはそういった自覚はなく、ここがどこかも分からない場所に放り出されているわけだが、鎧の男ディートリヒは様々なことを話してくれた。


 この世界のこと、周囲の町、周辺の地形、世界の常識。

 中でも気になったのは、魔物と呼ばれる存在がいることだろうか。


 それを丁寧に話してくれるが、俺にはその理由が分からなかった。

 見ず知らずの、それも"空人"と呼ばれる存在だったとしても、出会ってすぐの男にこれだけ親切にする理由が彼にあるのだろうか。

 そう思わずにはいられなかった俺は、自然と言葉が出た。


「なぜ、俺にこんなにも親切にして下さるのですか?

 とても助かりますが、その、何と言いますか……」

「意図が見えない、か?」

「失礼ながら、そう思わずにはいられません」

「はっきりと言うんだな、トーヤは」


 声を出しながら愉快に笑う彼の姿に、俺は警戒心を解いていた。

 だが、腑に落ちないことが多すぎるのだから、それでも考えずにはいられない。


 話を聞く限り、この世界はかなり危険な場所だと理解できた。

 魔物と呼ばれる存在だけじゃなく、盗賊や山賊も少なくはないらしい。

 それも人の命を軽々と奪い、人を奴隷として売買する厄介な連中なのだとか。


 会ったばかりである彼の話を鵜呑みにはできない。

 だが少なくとも、嘘をついているかの判断くらいは俺にだってできる。


 彼が話す内容に嘘は感じない。

 そんな必要もないし、騙そうともしてない。


 ならば何故、という疑問に戻る。


「……まぁ、言いたい気持ちも分からなくはない。

 こことは違う世界から来たんだから警戒だってするだろうし、解く必要もない。

 でもな、俺はお前に、嘘がつけないんだよ」

「どういうことです?」

「正確には、"空人に嘘はつけない"、だな。

 トーヤはこの世界で初めて俺に会った。

 それを確たる証拠として、スキルに出てるんだ」


 スキルとは、この世界特有の技能のことのようだ。

 剣や盾などの技術だけでなく、魔法と呼ばれるものにもスキルは多い。

 中でも特殊なのは、空人と初めて出会った時に授かるスキルらしい。


「"幸運"って言ってな、数多くあるスキルの中でもこいつは特殊なものなんだ。

 俺も爺ちゃん婆ちゃんから聞いた話しか知らないんだが、さっき確認したら授かってたよ」


 確認とはステータス確認のことを指す。

 つまりは自身の能力を数値や文字として見ることのできるものらしい。

 ゲームなんかでよく見かけるこれは、現在の状態から努力次第で向上する。

 当然その上限値には限りがあるが、これらを他人は視認できないそうだ。


 幸運スキルは中でも特殊で、空人を発見した最初のひとりに贈られるのだとか。

 なんでも女神からの恩恵やギフトとも呼ばれているもので、空人に不利益な情報を故意に与えたりすると消えてしまうものだと彼は話した。


「空人の不利益には虚偽だけじゃなく、暴力的な行為にも当てはまる。

 それらは空人であるトーヤが判断したものに大きく関係するらしいぞ。

 ようするに俺は、トーヤが不利益になるような言動を取れないってことだな!」


 楽しそうに笑うディートリヒの姿に苦笑いが出てしまう。


 そもそも空人とは、そう滅多に見かけるものじゃないらしい。

 その数は10年にひとりとも、100年にひとりとも言われているそうだ。

 基本的に数が少ないこともあるが、大きな理由としてはあまり名乗り出るべきじゃないと言われているんだと彼は話を続ける。


 空人と聞けば利用しようと付け狙う輩も残念ながら多いらしい。

 "発見者である幸運持ち以外は信用させるな"、なんて言葉もあるのだとか。

 その理由も何となく予想はついたが、どうやらその通りのようだ。


「空人ってのは、この世界の住人よりも遙かに特殊で強力なスキルを持つ。

 それも人によって様々あると言われているが、一個や二個じゃないって聞く。

 そのどれもが強力で、そんな力を軍事利用しようと目論む奴もいるらしいぞ」


 いわゆるユニークスキルと呼ばれるものだと教えてくれた。

 ものによってはスキルひとつで戦況を一変させてしまうのだとか。


「あくまでも人から聞いた話なんだけどな、俺はあながち嘘じゃないと思ってる」

「なるほど。でもそれは、空人次第でも変わる話じゃないでしょうか」

「確かにそうだな。でもトーヤが悪人じゃないのは、見た瞬間に分かったよ」

「そうなんですか?」


 優男に見られやすいからだろうかと考えていたが、どうやら違うようだ。


「トーヤの瞳は透き通るほどに澄んでいるからな。

 お前のいた世界じゃどうかは分からないが、悪党の色ってのがあるんだよ。

 俺はそれなりに経験のある冒険者だから、そういった連中もたくさん見てきた。

 トーヤも盗賊と対峙したら理解できると思うぞ。あぁ、こいつ危険だなって」


 これらは感覚的なものになる。

 しかし経験を積むことで誰でも理解できるようになる技術だ。

 その辺りもしっかりと学ばないと危ないなと考えていると、彼は話を続けた。


「まぁ、たとえトーヤが悪人だったとしても、俺はどうもしなかっただろうな。

 結局人なんてのは、何をするのも自由なんだ。良くも悪くも、な。

 誰彼構わず襲い掛かる奴だっていれば、それを良しとせずに武力で止めようとする奴もいる。中には悪人を言葉で説得しようとする変わり者だっているんだ。

 悪感情を抱いても"良心"って言われるもので押さえ込めるか、そうでないか。

 そんな些細な違いくらいしかないんじゃないかなと、俺は思うよ」


 笑いながらも話すディートリヒ。

 その姿はどこか寂しそうに俺には見えた。

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