防ぐ手段
だがこれは、俺の希望的観測だと言わざるをえない。
グランドマスターもそれを危惧しているんだろう。
俺の話には前提条件があるのを、彼はしっかりと見抜いていた。
《……しかし、それには問題も残っているよ。
ヴァイス殿が暗殺者を武力で制圧しようとも、情報を手に入れる前に終わらせられる可能性があるとは聞いているね?
それを防ぐ手段も用意してると我々は報告を受けているけれど、成功率として高くなければまだどう転ぶかは分からないとしか言いようがなくなってしまう。
実際の勝率はどのくらいか、目算を立てられるかな?》
グランドマスターの不安は当然だ。
この作戦のすべては俺の行動と、その成功を大前提としたものになる。
あらゆる可能性を考慮しなければならない立場にいるし、物腰が柔らかく優しい言葉を口にする彼には言えないようだが、失敗は絶対に赦されないことも事実だ。
仮に万が一のことがあれば、男は本国に戻り二度とこの国には来ないどころか、パルヴィアでの粛清が淡々と続けられる魔王の誕生を赦す切欠となってしまう。
だがそれも俺が"空人"である点が、すべてを解決に導けるだけの意味を持つ。
それをはっきりとした口調で、俺は言葉にした。
「ほぼ確実だと判断していただいて差し支えありません。
もちろん油断はできませんし、するつもりもありませんが、生きたまま捕らえるとお約束します」
これは大言壮語ではない。
それを確実なものにするだけの力を俺は所有している。
毒による自害だろうと、されたところで赦さない凄まじいスキルを持っている。
「"キュアⅣ"
対象が死亡していない限り、ありとあらゆる異常を治療するスキルです。
身勝手に終わらせる連中からすれば、これほど恐ろしいものはありません。
さらには自決防止用の道具をお借りすることで、より磐石となります。
戦闘に関しては信用していただくしかありませんが、その下準備をこれまでの旅で続けてきていますし、迷宮に潜って技術を高めるつもりです」
これが破城槌のひとつになる。
当然だが、それだけで豪語したりはしない。
「"ステータスダウン"で敵の能力を極端に弱体化させられるだけでなく、他のスキルで行動を制限、阻害、無力化させることも可能です。
同時に剣術や体術なども、他人に教えられるほどの技術として昇華しました。
最近覚えた引力と斥力、つまり引き寄せる力と突き放す力を応用すれば、奇をてらう攻撃で相手を翻弄させられるはず。
これに関しては、初見で対応できるようなものではありません。
強制的に体のバランスを大きく崩すことが可能となるスキルですから。
まず間違いなく大きな隙となり、それが決定打として終わらせられるでしょう」
二の矢、三の矢どころではない。
何重にも策を講じてこそ、初めて勝利の確信に至れるんだ。
だが俺にはもうひとつ、"キーアイテム"がある。
デルプフェルト憲兵小隊長のエトヴィンに渡すのを忘れていたもので、本音を言えば子供たちの前では使うのもためらってしまうほどのアイテムを。
ことんと目の前のテーブルに小瓶を置くと、テレーゼは静かに訊ねた。
「これは?」
「強力な自白剤だと"鑑定"スキルの結果には出ています。
デルプフェルトと西南西のドルンを結ぶシュタール街道の中ほど、リューレの森南端周辺で男の馬車を襲撃した主犯格の男が所持していた物になります。
薬師が作ったものではないので、非常に強い副作用が出るようです。
そのまま放置すれば重篤となるようですが、"キュアⅣ"で完治させられます。
情報の入手を最優先に考えるのであれば、手段を選ぶつもりはありません」
これも覚悟のひとつになるだろう。
そうでもなければ相手を制せないし、取り返しのつかない事態へと向かうことだって十分に考えられる以上、手段を選んでいる余裕はない。
……キュアⅣがなければギルドに指示を仰いでいた心の弱さは残るが、副作用を快復させられなければ人道に反する行為を実行するのは難しいだろうな。




