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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十二章 静と動
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最悪の事態に

 現在、ここからふたつ隣にある町に滞在している貴族の子息。

 その動向が正確に掴めない以上、言いようのない不気味さは感じる。


 しかし、これに関してはさほど大きな問題にはならないだろう。

 そう思える理由が、インベントリから取り出したこの装飾品にはある。


「……それが、問題の指輪ですね。

 拝見してもよろしいかしら?」

「どうぞ」


 テレーゼは指輪を受け取り、確認をした。

 それはまるで鑑定をしているようにも思えるが、彼女も噂に名高い貴族家の紋章が刻まれた実物をその目にするとは考えたこともなさそうだな。


「……確かにマルティカイネン家の紋章で間違いありません。

 それもこれは"代々受け継がれる宝石ビジュー・ド・ファミーユ"ではなく、"当主の指輪バーグ・ペトゥリアーク"です」


 テレーゼさんは商国の出身なのだろう。

 その言い方は、この自由の国では使われることがないはず。

 隣国特有の言語になるが、問題なのはそこではない。


 静かに答えたグランドマスターだが、宝石の向こうでは神妙な表情をしているように思えてならなかった。


《……そうか。

 そんなものを落としたままでいる理由はもう、ひとつしか考えられないね》


 当主の指輪とは、その名の通り当主以外は持つことを赦されない。

 当主から代行を任された程度で持てるようなシロモノでは決してない。

 それはつまり、勝手に持ち出している可能性が非常に高いということだ。

 そして現在も指輪を探すために動いていないように思えることも考慮すれば、最悪の事態に直面していると言い換えられるだろう。


「……やはり、男の辿った町に目的があると見て間違いないでしょうね。

 バルリングでは憲兵も容易には手が出せない"奴隷市"が出ると聞きましたが、それぞれの町に連中の拠点がある可能性も考慮するべきだと思えます。

 何よりもこの迷宮都市には"暗黒街"と呼ばれた無法者どもの巣窟があるそうですので、恐らくはこの町のどこかに本拠地が置かれていると俺は睨んでいます」


 それが意味するところはひとつしか考えられない。

 ヴィクトル氏もそれを懸念しているんだろう。

 確たる証拠はなくとも、恐らくは間違っていない事態を。


「男が立ち寄った町で暗躍している暗殺者、もしくはそれを可能とするだけの力を持つ者に協力を仰ぎ、この指輪を確実に取り返そうと躍起になっている可能性が非常に高いでしょう。

 ……いえ、それは"協力"ですらないのかもしれません。

 権力を笠に着る頭の悪いガキが命令を下しているのなら、本格的にこの世界の暗部を一掃することすら現実味を帯びてきます。

 となれば絶好の好機であることは疑いようもなく、襲いかかる暗殺者を捕縛するだけでも事態は確実に好転するほどの効果が得られるでしょう。

 末端だろうとマルティカイネン家に連なる者である以上、これだけの行動をしていれば情報共有をしないはずはないし、暗殺者と貴族の子息を両方捕らえれば当主がいかに反則の手(イリーガル・ムーブ)を取ったところで形勢は動かず、揺らぐこともありません。

 一気に牙城を突き崩せる決定的なチェックとなり、投了(リザイン)させられるはずです」


 これはあくまでも、"相手がまともな神経を持っていれば"、の話ではあるが。

 暗殺稼業を生業としている下衆どもにそれが通じるのかは確信が持てない。


 だからこそ万全と思える手段を講じ、あらゆる可能性に対応できるようにする。

 そうすることで、この世界から悪質な連中の一角を根絶やしにできるだろう。

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