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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十二章 静と動
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判断がつかない

 迷宮都市まで残すところ半日ほどか。

 この辺りは東西にある町から道が繋がる場所で、それぞれの目的でやってきた多くの馬車と合流し、そのまま並列しながら移動する街道となっている。

 それはまるで大規模隊商の護衛依頼に参加した冒険者の気持ちになるが、周りからは子連れで都市に向かう親子くらいにしか見えていないんだろうな。


 正直なところ、もう少し修練を積んでから来たかったが、これだけ周囲に目があると模擬戦ひとつロクにできない。

 あとはダンジョンに潜って経験を積むしかないか。


 町に着くまでの間、今後俺たちが取る行動についてリーゼルと話をしていた。

 今乗っている馬車は少々特殊で、このままギルドまで直行できるらしい。

 ギルドが所有しているものなので、馬を変えて荷台が別件で使われるようだ。


「乗合馬車乗り場で下車し、中央部経由の都市内循環馬車に乗り換え、中央広場ギルド会館前で降りるのが一般的ですね」

「歩いていくと時間がかかるの? リーゼルお姉ちゃん」


 首をかしげながら訊ねるブランシェだが、散歩がてら馬車乗り場から町の中央へ歩く人もいないわけではないそうだ。

 しかしそれも、のんびりとした時間をすごしたいと思っている人だけに限ってのことらしく、徒歩でギルド本館がある中央部まで向かうとなれば2時間は歩くことになるとリーゼルは答えた。


「ふむ。

 さすが都市、といったところか」

「それだけ人も多いから、はぐれないように気をつけないといけないな」


 まぁ、うちには興味が向いた場所に走るような子もいないし、大丈夫だろう。

 それも俺がこれまでと同じように気をつけていればいいことだな。


「そういえばトーヤ。

 迷宮で、"れじぇんだりー"ってアイテムを探すんだよね?」

「まずは修練に時間を費やすと思うが、それも目的のひとつだな。

 正確にはアーティファクトを探すつもりだよ」

「そうそう、それなんだけどさ。

 そのふたつって、どう違うものなの?」

「あー、アタシもよく分かんないや。

 どっちかがいいアイテムってこと?」

「そういえば、詳しく説明していなかったな」


 とはいえ、これに関してはリーゼルの方が詳しいだろうな。

 俺も間違ってるかもしれないから、あとで訂正してもらうか。


「レジェンダリーとは、人が製作した物の中でも"伝説級"と言い換えられるほど素晴らしい出来栄えの武具や装飾品のことだ。

 アーティファクトとは、この世界の女神が創り出したと言われる"人智を超えた物"で、人には生み出せない神がかり的にすごいアイテムのことを言うらしい。

 あくまでもこの世界の人たちにはそう言われているだけで、実際に女神が作り出したアイテムが世界にあるとも、俺には思えないが」


 ちらりとリーゼルに視線を向け、正しい情報なのかをそれとなく確認する。

 目が合った彼女にとても美しい笑みを浮かべながら答えた。


「トーヤさんのおっしゃった説明でおおよそ合っています。

 とは言っても、アーティファクトとなれば私も目にしたことがありません。

 それほど貴重なものという意味も含まれますが、何よりもダンジョンを相当深く潜らなければ入手できないと噂されているほどで、魔導具屋さんにはまず出回らないものでしょうね」


 実際にアーティファクトと思われるものを入手したとギルドへ報告報告する義務もないし、そんなことをすれば逆に狙われかねないと彼女は続けた。


「確か、売れば数億ベルツはするって話だからな。

 希少価値が高い分、奪い取ろうとする馬鹿もいるかもしれない」

「数千万を超える高額商品の売買ができるお店も限られます。

 一般的な魔導具屋さんでは買い取りが難しいものですから、恐らくは……」


 言いよどむリーゼルの伝えたいことも十分理解できた。

 恐らくは"暗黒街"と呼ばれている場所に流されるんだろう。


 その結果、貴族が見栄の象徴として抱える分には構わない。

 だがそんな凄まじいアイテムが厄介な相手に渡った場合、危険では済まない。

 まず間違いなく悪用されることは確実だし、それに涙する人々が出てくる。


 ましてや暗殺者のような危険分子が手にすれば、いずれは国すらをも脅かす存在となってしまうのは目に見えている。

 これから敵対する連中が持っている可能性を考慮した方がいいが、それも結局は心構えくらいしかできることがない。


 それほどにレジェンダリーアイテムの詳細は知られていない。

 アーティファクトであればなおのこと、知ってる者の方が少ないだろう。


 どんな効果であるのか、どんな形状をしているのか。

 数も入手場所も、そのすべてが不明としか言いようがない。



 この先にある都市は胸躍る冒険が約束された場所か、それとも闇と混沌が渦巻く魔都か。

 重苦しさすら感じさせる前方にある町がどのような形で俺たちを待ち受けるのか、その判断が今の俺にはつかなかった。

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