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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十二章 静と動
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強化魔法

 雨に降られることのない日が続き、俺たちは青空の下を進む。


 じんわりとしながらも、どこかすっきりとした心地良さを感じる夏の始まり。

 この国の例年では真夏でも27度ほどと、かなり過ごしやすい気候らしい。


 迷宮都市まであと2日といったところか。

 馬車の往来を避けながら、休憩中も目立たないように修練を続けていた。


「そうです。

 そのまま状態を維持してください」

「ぐ、ぬ、ぬぬぬ……」

「ブランシェ、力みすぎだぞ」

「ふむ……これは、中々面白いな。

 魔力がまるで己が力と化しているようだ」

「こんな使い方が魔法にあったなんて……。

 それもこれは強弱も自在のようですね」

「……とても不思議な感じ……。

 ……まるで魔力が体に行き渡るみたい……」


 リーゼルから身体能力強化魔法を習って2日目。

 早くも習熟速度に大きな差が現れ始めていた。


「休憩にしましょうか」


 その言葉に座り込むブランシェは、大きく息をついた。

 何を考えているのか丸分かりな暗い表情をしてるな。


「……うぅ……」


 涙目になるブランシェだが、修練を始めた翌日に体得する方が非常識だろう。

 そして彼女以外の全員が早期に体得できた特殊な理由も俺は分かっている。

 それをこの子に伝えたところで身体能力強化魔法を入手できるとは思えないし、そう簡単には体得できないものなのは確実だろう。

 これだけ短期間で体得したことにリーゼル自身がいちばん驚いてる。


 しかし、魔力による身体能力強化は絶対に必要だ。

 この先のことを考えれば、安全のために覚えてもらわなければならない。


「……みなさんの習熟速度には本当に驚かされます。

 扱いがとても難しく、私が体得するまではひと月以上もかかったのですが……」

「まぁ、なんていうか、俺たちは特殊だからな」

「……アタシだけ、仲間はずれ?」


 今にも泣き出しそうな悲しい声色が耳に届く。

 これに関してはリーゼルよりも俺の方が適任かもしれないな。


「ブランシェは魔力で鎧のように体を堅めようとしたんじゃないか?」

「……え? う、うん。

 だって、"魔力を体に纏わせる"んでしょ?

 体が強くなるんだから、力いっぱい込めた方がいいと思って」


 やっぱりそう思っていたんだな。

 なら、話は簡単だ。


「レヴィア、水をこの場に留めてもらえるか?」

「ふむ……こうか?」

「それでいいよ、ありがとう。

 少しそのままでいてくれ」

「わかった」


 胸の高さで球体状の水を形成したレヴィアにお礼を伝え、その中にブランシェの手を入れるように言った。

 首を傾げながらも手を入れた子へ、俺は言葉にした。


「水が魔力で、ブランシェの手が体だと思ってほしい。

 さっきは強引に魔力の中を泳ごうとした結果、上手くいかなかったんだ。

 今度は力を抜いて、水の涼しさを感じるといい」

「水の涼しさ?」

「そのまま瞳を閉じる」

「…………ひんやりして、気持ちいい」

「魔力を少しだけ出す」

「……」


 ブランシェの体からわずかに力が溢れたのを確認し、続けて言葉にした。


「ゆっくり、静かに。

 体の中央へ集めていくんだ」

「……」


 徐々に魔力が体に集まるのを感じる。

 コツさえ掴めば、あとは修練あるのみだな。


「ほら、できただろ?」

「……できた……できた! ……ふぅ゛ッ」


 嬉しさから涙がこみ上げてきたブランシェを抱き寄せ、頭を優しくなでる。

 焦りから力みすぎていたのは俺にも分かったくらいだし、自分だけできないと思ってたこの子がいちばん戸惑ったはずだ。

 こういう時、同世代のフラヴィを意識してしまうのも仕方がないことだが、それでもこの子がすぐに体得できるのにもしっかりとした理由がある。


「ブランシェはちょっと難しく考えすぎてただけなんだよ。

 リーゼルが教えてくれた魔力による身体能力強化を感覚的に言うなら、"動"の下位技である"(しゅう)"にとてもよく似ている。

 "動"系統に偏りが見られるブランシェが強化魔法を体得するには、むしろ向いていると俺は思うよ。

 それに基礎的な訓練を含め、下地は十分に出来上がっていたんだ。

 2日と経たずに覚えられたのも、それほど特別なことじゃないんだよ」

「それでほぼ1日という驚異的な短時間で体得できたのですね」

「フラヴィは俺の技術を受け継いでいるし、エルルとリージェ、レヴィアの3人は魔力の扱いに長けているから、自然と使いこなせたんだよ」


 納得した様子でリーゼルは頷くが、これはそう簡単には使えないだろう。

 身体能力強化魔法が世界でも使われていない大きな理由のひとつだな。

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