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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十二章 静と動
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資質を持つ者

 "英雄の資質"

 この世界で極々稀に生まれる、並外れた才能を持つ存在の総称だ。

 誰がそう言葉にしたのかも定かではない大昔から突如として出現するように生まれるらしく、詳細などは一切判明していない。


 ただひとつ確実に言えることは、世界規模で考えても能力が群を抜いて高いのは間違いないそうだ。


 以前に聞いたフランツの話から推察すると、伝説の聖女レリアも"英雄の資質"持ちだった可能性が高いと俺は踏んでいる。

 彼女は突如としてこの世界から消えたそうだが、仮に元いた世界に帰還した空人であったとしても、身体能力的に龍を倒せる強さを持つとは思えないからな。


 剣聖で薬学にも造詣が深く、魔術まで最高峰ときた。

 レリアの白銀剣を見る限りでは、剣の技術がなければ振り回される業物だった。

 間違いなく一般人ではないどころか、遥か高みの強さにいたことは確実だ。


 「俺も人から聞いた程度の知識しか持っていないんだが、圧倒的とも言えるほどの武力や知力などを使って解決できうる資質を持つ者のことをそう呼ぶと聞いた。

 そういった存在は得てして多国間の厄介事に巻き込まれ易い傾向があるらしい。 

 リーゼルはそういった意味も含めてソロ活動を続けてきたんだろ?」

「……仰る通りです」


 どこか話しづらそうに、彼女は一言だけ答えた。


 恐らくだが、それを知る者なんてごく少数だろうな。

 異世界人の"空人"並に厄介なことに見舞われる可能性があるなら、あえてそれを口にするのは避けるべきだし、今の戦闘でも確信を得るやつはそうそういない。


 これはランクS冒険者が異質な強さを持つことの裏返しなのかもしれない。

 誰かに教えられるほどの技術を持たなければ強さの上限を掴むのは難しいし、そういった意味では誰かに気づかれる限界点の強化で戦っていたんだろうな。


「……その……どうしてそう思われたのか、伺ってもよろしいでしょうか?」


 不安、焦り、戸惑い。

 色濃く負の感情が表れた彼女を見るのは初めてだが、納得させるだけの答えを俺は持ち合わせていないかもしれない。

 それでも、このまま一緒にいてはいけないと思っているだろう表情が丸分かりな彼女を放っておくこともできない。


「しいて言えば、勘だな」

「ふぇ?」


 思わぬ答えに虚を衝かれたみたいだな。

 普段は絶対出さないだろう声が彼女から発せられた。


「まぁ、俺も古武術流派の師範代になれるまで技術を高めているからな。

 模擬戦をすれば、相手の色んなことがそれなりに分かるんだよ。

 この世界のランクB冒険者の実力は知っているし、盗賊とも戦った。

 それが力量を測るすべてではないが、ある程度の基準は理解してるつもりだ」


 当然それらを精査したとしても、それだけですべてを推し量れるものではない。

 そんな危険なことはしない方がいいし、何事にも例外はつきものだからな。


「……本当に、トーヤさんはすごいのですね。

 たった一度の模擬戦で、多くのことを知られた気がします」

「それは買いかぶりだよ。

 違和感に近い程度のものだったから、さっきの言葉も間違いじゃない」

「勘、ですね」

「あぁ、勘だよ」

「そうですか」


 気が抜けたのか、自然な笑顔でリーゼルは笑った。

 釣られて俺も頬が緩み、模擬戦のひと時を思い出しているとブランシェから空腹を告げる鐘の音が耳に届き、今度はみんなで声を出して笑った。


 作り笑いをしなくなったリーゼルはとても素敵な表情を見せるようになり、俺たちも彼女の傍は居心地が良く感じられた。

 だから俺の口からこの言葉が出たのも、ごく自然なことだったのかもしれない。


「リーゼル、この一件が片付いたら、俺たちと一緒に旅をしないか?」

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