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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第三章 掛け替えのないもの
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旅行している気分で

 見上げるほど大きな街門を通りながら、俺は様々な感慨にふける。

 徐々に視界が広がるその景色は、俺が憧れていたものにとても近かった。


 行き交う人こそ俺の知る世界とは違う装いをしているが、並ぶ店や建物の姿はヨーロッパに近いだろうか。

 屋根はどれもが統一されたオレンジを少し含んだ赤い色。

 石造りの白い建物は、不思議と懐かしさを思わせるような気持ちになった。

 これは昔テレビで見たクロアチアの街並みを思い起こさせる美しさを感じる。

 日本を離れたことのない俺には、感動という月並みな言葉しか出なかった。


「目が輝いてるな、トーヤ。

 俺達にはいたって普通の景色なんだが、そんなに面白いのか?」

「ああ、かなり好きな風景だよ。俺が憧れてた国のひとつによく似てる」

「このデルプフェルトには20万人が暮らしてるって言われてる。

 ま、実際にどれくらい住んでんのか俺は知らないけどな」


 笑いながらフランツは、これでも人が少ない町なんだぞと話した。

 実際にここは普通の町で、都市ともなればその数は3倍どころではないそうだ。


 近隣にある町については林を歩きながら色々と聞いたが、どうしても興味が向いてしまうのは、街並みや行き交う人々がまるで絵画の中にいるかのように思えるからなのかもしれない。

 そういった意味では、まるで中世のヨーロッパを旅行している気分でこの世界を楽しめそうだと俺には思えた。



 ギルドまでの道で、彼らから教わった情報と目に映るものを照らし合わせる。


 道具屋、服屋、飲食店、食材屋、武具屋、加工屋、素材屋、薬屋、酒場。

 さまざまな店にかけられている看板を確認するように記憶する。

 中には占い屋や魔導具屋、情報屋なんてのもあった。


 占い屋は、日本にいるような占い師だけが店を開いているわけではないらしい。

 ユニークスキル"占術"を持つ人が経営している場合もあるそうで、占う内容も時には未来予知と思わせる結果が出ることもあるのだとか。


「"探し物や探し人は占い師を頼れ"。

 こんな言葉もわりとよく言われているぞ。

 一般的には情報屋が利用されるが、時間と金もかかる。

 スキル持ちの占い師にお願いする方法も憶えておくといいかもな」


 笑いながらディートリヒはしていた。


 スキルで占わない方法、いわゆる占星術やカードなどで占う者もいる。

 残念ながらそれほど当たる確率は高くないそうだが。


 もっぱらそういったことが大好きな女性達に人気なのだとか。

 どちらかといえば娯楽として楽しんでいるのだろう。


 どこの世界の女性も占いは嫌いではないらしい。

 店を横目に放しながら、俺達は大通りを進み続けた。



 *  *   



 町の中央部となるこの場所は、それぞれの区画へ行けるようになっている。

 他の町もここと同じように人々の憩いの場所として使われるそうだ。


 立派な像や噴水、時計塔などが置かれているのが一般的で、この町の中心部には大きめの噴水が涼しげな水を心地良く響かせながら出していた。


「それにしても、人が多いな」


 淡々と言葉にしたが、これでも相当の驚きと感動があった。

 行き交う人々の中には獣人と呼ばれる者達も歩いているようだ。


 思わず目で追ってしまう俺へフランツは話した。


「ま、ここは町の中心だからな。

 いい店も集中してるし、美味い物もたくさん食える。

 隠れた名店でもない限り、この辺りはおススメで安定の店が多いぞ」


 中でもフランツのお薦めは、中央西側にある肉専門店らしい。

 元々は裏通りの寂れた地区に屋台を出していたが、ここ2年で急成長したその肉料理屋は、中央部に店を構えるほどの人気店となった。


「秘伝のタレがやみつきになる美味さでな。

 溢れる肉汁と香ばしいタレの相性が抜群で、飯時ともなると行列もできるんだ」


 聞いているだけでも腹が減ってくる。

 異世界に来てまずは世界を楽しもうと思っていたが、食べ物に関しては考えていなかったことに今更ながら気がついた。

 そういった美味いものを探し歩いてみるのも楽しそうだな。


 *  *   


 中央部東側にある、一際立派な佇まいの建物。

 入り口にかけられた盾を背景に剣と杖が交差するマーク。

 ここがいわゆる冒険者ギルドと呼ばれる場所らしい。

 両開き扉の先を想像していると、どこか高揚感を覚える。


 この先にはディートリヒ達のような冒険者がたくさんいる。

 そういった当たり前の世界をようやく目にすることができる。

 本の中でしか見たことのない世界が、この扉の奥に広がっているのだろうか。


 気持ちが瞳に出ていたようで、フランツはにまにましながら言葉にした。


「分かるぞ、その気持ち。俺もそうだった。

 この、はじめて扉を開ける瞬間がいいんだよな、うんうん」


 なにやら妙な誤解をされているが、あまり気にしないでおこう。

 周りを見てみると、フランツだけがよく分からない納得をしているようだ。


「あー、どうする?」

「いいぞ。先に行って」

「そうか。まぁ、そうだよな」

「ああ」


 ためらいもなく扉を開いたディートリヒに驚き、目を丸くしながら抗議をするフランツを入り口に残して、俺達は館内へと足を進めた。

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