この対応は想定外
残念ながらそれ以上の情報はなく、先に進むしかなさそうだ。
どこか申し訳なく思うような様子でフォルツは答えた。
「各ギルドが取る方針の詳細についても、私からは言葉にできません。
ですが、それもすべてはバウムガルテンのギルドマスターから指示を仰いでいただければと思います。
お役に立てず申し訳ありませんが、ここでの憶測は避けるべきだと判断します」
「バウムガルテンの冒険者ギルドへは赴かなければなりませんし、事が事だけにギルドを統括する側の意見も伺う必要があります。
フォルツさんにはレヴィアの件を含め、村の調査をよろしくお願いします」
むしろこの一件も厄介事となっている以上、お願いするしか俺にはできない。
しかし彼はそんな不安を払拭するように、覇気のある即答で応えてくれた。
「そちらに関しては早急に対応を取らせていただきます。
レヴィアさんにはヘルツフェルト冒険者ギルドマスター代行としての立場だけではなく、この町に住まうひとりの者として心からの感謝を申し上げます。
個人的な話で恐縮ではありますが、龍であるあなたと対話できたことはこの国の、いえ、この世界全体の意識を改革できうる可能性すら秘めていることに嬉しさを強く実感します。
すべての人が善人ではないように、龍もまた同じなのだということを踏まえた上で、それでもあなたとの邂逅はこの上ない幸運だったと私には思えてなりません。
どうか、これからも人を見守り続けていただければ幸甚に存じます」
深謝とともに深々と頭を下げる若きギルドマスター代理。
この人がいれば、ヘルツフェルトは安泰だろう。
俺は本心からそう思えた。
そんな彼を見ながら目を丸くするレヴィア。
思っていたこととは違う反応だったようだな。
戸惑いながらも彼女は言葉にする。
それは、どこか嬉しさを感じさせる気配を纏っていた。
「……ふむ。
我が受け入れられない可能性を考慮していたが、この対応は想定外だ。
……こういった時、我はどう反応すれば良いのだろうか……」
「いや、俺に聞かれてもな……。
自分がしたいようにすればいいんじゃないかと思うが」
「……むぅ」
考え込むレヴィア。
そこまで考えることもないと思えるが、彼女からすれば判断に困ることなのか。
「……そうだな。
すべてに当てはまるわけではないが、ヒトの温もりは得がたいものだと知った。
それを教えてくれた少女のことを、この町の住民にも知ってもらいたい。
コルネリアと両親のために哀悼の意を表してもらえたら、我も嬉しく思う」
「もう二度と悲しみを繰り返させないために、誠心誠意努めてまいります。
つきましては、レヴィアさんについても伝えさせていただきたく思います。
同時に人が持つ龍に対しての意識改革を行えるでしょうし、そうすることでより良い世界になっていくと私は信じています」
「……"より良い世界"、か……。
……かつては龍とヒトとが共に暮らしたこともあったと聞く。
夢物語にも思えるが、それが現実のものとなることを我は願っているよ」
そうなればきっと、神などに捧げられる者は出てこなくなるだろう。
彼のような考えが世界中に広まれば、それも現実のものとなるかもしれない。
……龍と人とが共に暮らす世界、か。
それはきっと、今よりもずっと穏やかで優しい世界なんだろうな。
俺にはそう思えてならなかった。




