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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十二章 静と動
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勇猛果敢

 平原を駆けるその姿は、まさに疾風。

 この速さはさすがにフラヴィでは追いつけないだろう。


 だが、これほどの相手ともなれば、久々に面白い勝負(・・)ができそうだな。

 持ち前の身体能力を活かして俺との距離を一気に詰める彼女に、大人気なく技を使いたくなるほどの強さを感じた。


 正面からの高速突きを避け、カウンターを放つ。

 強引に頭を下げて回避するブランシェは、さらに短剣を突き立てた。


 こちらを見ずに放った一撃は多少遅い速度だが、しっかりと足腰を入れている。

 木の短剣だろうと、当たれば怪我をするほど痛いだろうな。


 ……当たれば、だが。


「甘い」

「――くっ!」


 伸びきった腕をこちらに引き、力を上後方へ強く誘導する。

 瞬時に地面を蹴り、後方へ体全体を受け流すように回転したブランシェ。


 ……今のは確実に力の流れを感じ取りながら回避していたな。

 それを頭ではなく体で理解し、動かしていたほどの速度だった。


 見事という他ない、素晴らしい体捌きだ。

 間違いなく気配察知の効果が戦闘に現れている。


 しかし失敗すれば腕が折れていたことを、この子は理解しているんだろうか。


 体を縦回転して地に脚をつけると同時に蹴り出し、間髪入れずにダガーで突く。

 徐々に速度は上がってきている彼女に、こちらも合わせて速度を上げる。


 ……折角だ。

 駆け引きも少し入れてみるか。


 視線と威圧に近い気配を使い、彼女の動きを誘導する。

 さすがに初めてだし、面白いように引っかかるな。


「うぬぬぬッ!」

「どうした?

 おしまいか?」

「まだまだぁッ!!」


 いい傾向だ。

 威圧に飲まれず、こちらに迫るか。

 まさに勇猛果敢、けれど決して特攻なんてものじゃない。

 冷静に気配を探り、俺のフェイントにかかりながらも次の一手を予測している。


 ……そうか。

 これが最強種と呼ばれる、フェンリルの特性か。


 恐らくはそのひとつだろうが、天賦の才と言えるほどの習熟速度だ。

 これまではフラヴィとエルルに合わせていたことが、かえってブランシェの真価を隠す結果になっていた。


 この子は間違いなく天才だ。

 それも戦闘技術に関してはフラヴィすらも上回る。

 俺の技術を受け継いでいるが、経験の少なさから今のままではブランシェに勝てないほどの強さをこの子は見せている。


 何よりも体力を含む体捌きが凄まじい。

 強靭な足腰と体幹筋を持っていることは間違いない。

 中でも瞬発力と応用力は人よりも遙かに飛び抜けている。


 冷静さと判断力はフラヴィの方が上だが、この子は"静"ではなく"動"寄りだ。

 "動"系統の技を覚えれば、極端に強くなれそうだな。



 ……本当にすごいな、この子は。

 今なら十分、ディートリヒたちをひとりで圧倒できるほどの潜在能力がある。

 あとは戦闘の経験を積み、駆け引きを覚えるだけでも彼らに負けることはない。


 フラヴィも俺の技術を継いでいる以上、負ける姿はとても想像できないが、あの子は優しすぎるから戦闘に対して忌避感を覚える性格だ。

 俺が大切に思っている人へ剣を向けられないはずだから、恐らくは戦えない。

 いや、正確には戦いたくないと悲しい顔をしながら答えるだろうな。


 何度目かも分からないカウンターを放ちながらしみじみと考えていた俺を、一瞬で凍りつかせる一撃を放つブランシェ。


「――ぅりゃああッ!!」


 見よう見まねで拙くはあるが、俺の腕を持ち、下に力の流れを誘導された。

 縦回転されながらもこの子の右足を掴み、短剣を地面に突き刺して固定する。

 両足を強く回転させながら力を込めて、ブランシェの足を持ち上げるように流れを強引に上方へ強制変更した。


「――んにゃああにそれえぇええッ!?」


 まともな言葉にすらなっていないブランシェの悲鳴が周囲に響き渡り、地面に倒れんだところを引き抜いた剣先を向けて、楽しい勝負の時間は終了となった。

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