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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第二章 後悔しないのか
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そんな世界があるなら

 浅い森の中を魔物に警戒しながら、俺達は北北東に進む。

 話に聞くとこの辺りは、それほど魔物と出遭う場所ではないらしい。


 特にここは穏やかな地域らしく、町からもそれほど離れていない点を考えると、そう珍しいことでもないそうだ。


 平原や草原なんかも魔物は少なく、逆に深い森や高原などでは多く見かける。

 そういったことも学びながら、俺達は町を目指して歩き続けた。


「……にしても、すっげぇ気迫だったな、トーヤ」

「確かにあれはすごかったな。

 ……少々やりすぎのようにも思えるが」


 ディートリヒは呆れたように話すが、実際にはあれでいいと俺は答えた。

 非道をやらかし続けた連中に慈悲を向けられるほど、俺はお人よしじゃない。


 人には"やっていいこと"と、"いけないこと"が明確にある。

 小学生ですら理解できることも分かろうとしない大人は更正できない。

 それを守れないのではなく、守ろうとすらしない連中を赦す必要もない。


 俺はそれをはっきりと言葉にした。


「……悲しいことですが、トーヤさんの考えは正しいと私も思います。

 神官にあるまじきと言われてしまいますが、人の命をあのように笑いながら奪う者は、すでに人の道を踏み外してしまった存在なのではないでしょうか……」


 涙ながらに改心し、それを信じて野に解き放てば再び略奪を繰り返す。

 今度はより狡猾に、もっと残忍に、暴力をためらうこともなくなるだろう。



 俺は日本でも"死で償う"という裁きを良しとはしていなかった。


 廃止論者だという意味ではない。

 死とは生の結果に過ぎず、それが罪を償うこととは結びつかないからだ。

 実際にその刑が執行されて安堵する者もいると知った上で、俺はそう思う。


 その元凶が存在し続ける限り、悲しむ人や恐怖する人、憤る人が出るだろう。

 でも、だからこそ死という方法で終わらせてはいけないんだ、とも思う。


 何十年をかけてでも、自分のしでかしたことに気づかせる。

 そうすることで同じような被害者を出さないための抑止にもなる。


 だが、あの国ではそうはならない。

 そう思わせないことが、俺のいた場所では起きてしまう。

 生涯を檻の中で過ごすことなく、恩赦を与えられる存在がいるからだ。

 執行猶予なんていう、俺にはまったく理解できないものもある。


 本当に不思議な国だと思う。

 被害者よりも加害者が時として護られる。


 そんなものを人権とは呼ばないと思えるのは、俺がまだ子供だからなのか?

 ケースバイケースなのも分かってるつもりだが、それでも檻から出さない法律が作られない限り、快く思わない人がこれから先も出続けるんじゃないだろうか。


 そんな話を歩きながらしていると、どこか寂しげにディートリヒは呟いた。


「どこの世界も同じなのかもしれないな」

「人は、業の深い存在です。生きていくにも命を奪わねばなりません。

 だからこそ命とは尊いもので、大切にしなければならないと私は思います」

「……人が争うことなく、静かに暮らしている世界なんて、あるんでしょうか」

「どうだろうな。俺はこの世界しかしらないし、創作物の中だけかもしれないな」

「トーヤの世界も戦争があるみたいだし、殺人も起きるんだから、こことあんま変わらない気がするな」


 フランツの言う通り、こことある意味では似通っているのかもしれない。

 実際にはこの世界よりも遙かに多くの人が犠牲になっていると思えるので、もしかしたらあの世界の方が、生きることは難しかったんだろうか。


 ……いや、違うな。

 俺は日本人だから現実を知った気でいるだけだな。

 きっとあの場所で生きるだけなら楽だったんだろうと思う。


 世界では1秒間に何人も亡くなっていると聞いたことがある。

 それは病気であったり命を奪われたりと、理由は違うんだろうけど。

 70億人も暮らす星で、誰もが平和に暮らすことなんて不可能なんだろうな。


 争うこともなく、いがみ合うこともない。

 そんな温かなで穏やかな優しい世界があるなら見てみたいもんだよ。

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