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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十二章 静と動
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真剣勝負の本質

 当たれば一撃、でも当たらない。

 逆にこちらが当てられる可能性が高い。


 これでは悲劇となるのは確実だ。


「"一撃必倒"

 これこそが真剣勝負の本質になる。

 同時にこれを克服できなければ、命を奪われると思った方がいいと俺は思う」


 鍔迫(つばぜり)り合いなんて、もってのほかだ。

 その時点で危険な膠着(こうちゃく)状態となるし、勝敗すら分からなくなる。

 それ以前の話だと、俺は父から学んでいる。


「相手よりも速く。

 何よりも最短距離を駆け抜ける一撃。

 これこそが真剣勝負には必要不可欠な要素になると学んだ」

「……なるほど、確かにその通りだ。

 しかしそれでは対処法も限られるのではないか?」

「そうだな。

 どうすればいいか、ブランシェは分かるか?」

「……ぅ……。

 ……はんまー、イクナイ……」

「……なぜ片言なのかはこの際置いておくとして。

 技術を突き詰めることが武術の基本ではある。

 だが、俺の言いたいことは少し違うんだ。

 何もハンマーを使わなくなる必要はない」

「……え?

 でも、当たらないんじゃ……」


 また泣き出してしまいそうなほど耳を垂らしたブランシェは答えるが、実際に大槌を含む超重武器をやめる必要なんてないこともしっかりと伝えた。


「つまり攻撃の通じない相手には"別の武器"で戦う必要があるってことだ」

「だが、一撃必倒の勝負に武器を変える暇すらないのではないか?」

「その危険性も十分に考えられる。

 だからできれば最初から速度を重視した武器で戦う方がいいとは思うよ。

 でもブランシェは槌が好きみたいだし、まだまだ改善の余地はある。

 限りなく隙をなくしながら攻撃をすることと、戦闘での駆け引きを覚えることである程度は安全に戦えるようになるはずだが、いざという時にはハンマーを捨ててでも瞬時に別の武器へ変える判断力も必要になると思うんだ」

「……槌が通用しなければすぐ別の武器に切り替えるなんてこと、できるの?」

「修練次第でいくらでもできるよ。

 それに超重武器のデメリットも今回ではっきりとしたはずだ。

 振り下ろし、振り上げ、突き、横薙ぎのおおよそ4つに分類されるために、相手の攻撃がすごく読みやすい。

 ここに俺が教えた気配察知を使うことで、回避することがさらに容易になる。

 俺個人としての見立てでは、ブランシェには速度を活かした短剣を推奨するよ。

 そして短剣と格闘術を持ち前の強靭な身体能力に複合させれば、それだけでどんな状況にも対応できるくらいの力にまで昇華できる可能性がある」


 この子が持つ、人では到達できないほどの身体能力を十全に活かすことで、凄まじい速度の攻撃を可能とするだろう。

 それはランクS冒険者だろうと間違いなく通用する攻撃だ。

 それも対処のしようがない次元の速度で、相手を翻弄できるようになる。

 世界にいる最高峰の達人だろうと、本気で繰り出した一撃を防げるかも分からないほどのものを、この子が持つ身体能力であれば実現してしまうはずだ。


 それをブランシェにしっかりと伝えた。

 あとはこの子自身がそれを受け入れられるかどうかになる。

 ここで断るようなら、槌が生み出す隙を極端に小さくしなければならない。

 最悪の敵と遭遇した場合は後退させて、戦いから外すことにもなるだろうな。


「……身体能力を活かした、ダガーの一撃。

 ……誰にも見えないほどの速度で相手を翻弄……。

 なにそれカッコいいッ!!」


 ぱぁっと瞳を明るくするこの子に俺は安堵した。

 どうやら最初の取っ掛かりは掴めたようだ。


 これで短剣を気に入ってくれたら、槌を振るうよりも遙かに安定するだろう。

 何よりも安全に戦えるし、確実性の高い一撃を繰り出せるようになる。


 この子はまだ知らないんだ。

 腕力を活かすよりも遙かに高みへ行けることを。

 速度を極めた者だけが到達できる、凄まじい景色が見られることを。


 その感覚をほんの一部でも掴むことができれば、世界は一変するはずだ。

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