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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十二章 静と動
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流派と我流の違い

 ブランシェひとりと対峙する俺は、木刀を構えながら言葉にする。

 戦槌を好む彼女の戦闘スタイルを否定しかねないことをこれから見せるが、この子ならその意味もしっかりと学んでくれるのを信じている。


「今から見せるのは、"流派と我流の違い"だと思ってくれていい。

 ブランシェは自由に攻撃をしてかまわないよ」

「うん! わかったよ、ごしゅじん!

 今度こそ、いっぱつガツンと決めるんだ!」


 ……何をどこにだよ……。

 なんて突っ込んだところで意味はなさそうだ。

 当たり所が悪ければ俺でも即死する一撃を、この子はどうする気なんだ……。


 まぁ、それも信頼あってのことだから、注意するわけにもいかないが。


「いくよ、ごしゅじん!」

「あぁ、いつでもいいぞ」


 ふた呼吸置いて、一気に距離を詰めるブランシェ。

 最近この子の加速力は爆発的に上がっているように思える。

 ようやく体の使い方が分かってきたみたいだな。


 特に今回はひとりだ。

 これまでと違って、フラヴィと足並みを合わせる必要もないからな。


 ……これだけのものを身体能力だけで出せるなんて、羨ましい限りだ。

 人間を遙かに超えるが、それでもまだ力だけで負けてやるわけにはいかない。

 そう遠くないうちに技を使わなければ、こちらも対処ができなくなるだろうな。


 豪快に振り上げる大木槌の隙。

 まるで縫うように首筋へ剣先を止めた。


「……ぇ」


 目を大きく開けるブランシェは、槌を振り上げたまま固まる。

 だが瞳の奥は、その意味をはっきりと理解しているようだ。


「――くっ」


 半歩下がり、横薙ぎにハンマーを振るう。

 上半身を逸らし、豪快に空を切る槌。

 同時に半歩足を出して、がら空きの脇腹に剣を触れた。


「な!?」


 俺が何を言いたいのか、もう分かったろ?

 力任せに重い武器を振っても、通用しない相手がいるんだ。

 どうすればいいのかもブランシェなら気づいてるはずだ。


 距離を保ち、再び攻撃をしようとするブランシェだが、そのすべてをこちらへ槌が迫るよりも遙かに速く剣を触れて封殺した。


「――ふぅ゛ッ」

「ここまでだな。

 ごめんな、ブランシェ」

「ごしゅじんは、わるぐ……ないも゛んっ」


 泣き出してしまったブランシェを優しく抱き寄せ、頭をなでながら謝る。

 ちょっとやりすぎたかもしれないが、その意味もしっかりと伝わったはずだ。


 *  *   


 ブランシェが落ち着きを取り戻した頃、俺は彼女に訊ねた。


「今、起きたことが何を意味するのか、もう分かったろ?」

「……うん。

 アタシの攻撃は、隙が大きすぎるんだ……。

 どんなに頑張っても、ごしゅじんの攻撃は止められそうにない」

「俺に限らず、より速い攻撃をしてくるやつはいると仮定した方がいい。

 真剣同士の戦いとは命の奪い合いになるから、攻撃速度は何よりも厄介になる。

 それはつまり、たったの一撃で(・・・・・・・)勝敗を左右するってことなんだ」

「そ、それはそうだけど、ブランシェの攻撃は当たればどれもすごい、威力……」


 言葉に出しながら、エルルもそれに気がついたようだ。

 青ざめるように口を噤むこの子は、ブランシェが負ける姿が見えたみたいだな。


「そうだよ。

 一撃で敵を倒せる攻撃を繰り出しても、当たらなければ意味がないんだ。

 そして同時に攻撃が当たらないということは、負けを意味すると思っていい。

 俺が見せた攻撃は、そのどれもが最短距離を駆け抜けて繰り出したもの。

 だからこそブランシェは何もできなかった、とも言えるんだが、これが意味するところは看過できないほどの危険に直面することになりうるんだよ」


 酷な話になるが、選ぶ武器種でおおよそ勝敗は分かれてしまう。

 それをブランシェだけじゃなく、全員に学んで欲しかった。

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