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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十一章 長い夜
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証拠となるもの

 "小高い丘"の絵は正解だったようで、右の壁側に新たな道が開けた。


 細い道を進んで行くと、これまで以上に広い場所へ出たようだ。

 目の前に広がる光景に思わず呟いてしまう。


「これは、さすがにすごいな……」

「うむ。

 だが、どうやら剣はなさそうだな」


 冷静に答えるレヴィア。

 200体はあろうかという石像が目に映った。

 すべてが杖をついた老人の像だが、置かれている向きはそれぞれ違うようだ。


 これほどの規模かつ広大な空間に思うところはある。

 手で掘り進め、何年も掛けて造り上げたものではない。

 恐らくだが、空人のユニークスキルを使ったんだろうな。


 土に系統する属性なら、そういったことも可能なのかもしれない。

 随分と深く潜ってるが空気は問題ないようだし、そういったことも改善できるスキルなのか、それとも協力者がいたのか。

 非常に興味深いと思えるが、ここまでする意図はやはりひとつなんだろうか。


 入り口付近に置かれた石碑にはヒントと思われる言葉が記されているが、この世界にいる住民が武器を入手できないようにしていると確信した。

 ここが造られたのがどれほど昔かも正確には分からないが、少なくともここに記された言語を理解させないためのもので残した以上、やはりこの先に眠るものが特殊すぎる武器なのは間違いない。


「……"黄泉の地へ、老人と共に"

 …………そうか、そうだったのか……」


 これで造り手が何者なのか理解できた。

 そして、ルートヴィヒが持ち帰らずに去ったのも意図的だ。

 恐らくはこの先にその旨が書かれた石碑があるはず。


 ……これは俺が手に、いや、"俺専用の武器"と考えてもいいんだろうか……。

 ここを造った者はそれを望んでいると、俺には思えてならなかった。


「トーヤ?

 どしたの?

 大丈夫?」

「……あぁ、問題ないよ」

「何やら強く思うところがあったようだな」


 鋭いレヴィアに思わず苦笑いが出た。

 考えていることが顔にはっきりと出ているのかもしれないな。


「なぜこんな場所を造ったのか。

 それがどんなやつだったのかも、大体分かったよ」

「え?

 どうして?

 だって、トーヤは逢ったこともない人じゃないの?

 もしかして知ってる人が造ったの?」

「いや、直接的な面識はまったくないよ。

 だがここは空人の、それも日本人(・・・)が造り上げた場所だ」

「……ふむ。

 ニホン、とは、確か(ぬし)がいた国だったか?」

「そうだ。

 ここを造ったのは俺と同郷の者だが、かなり昔の人だったと思う。

 この世界は俺のいた時代と比べて500年は古い文明しかない。

 もちろん魔法なんてない世界だし、ここでは確立されていない科学文明が発達しているから500年後の世界とは随分違うはずだけど、空間や仕掛けを造った人物はこの世界を歩き、様々な文化に触れてここを造り上げたんだろうな。

 その証拠となるものが、この石碑に書かれている」

「……どういうことだ?」


 レヴィアの問いに俺は答える。

 その推察が疑いようもない事実を。


 "黄泉の地へ、老人と共に"

 石碑には日本語(・・・)で書かれていた。


 とても古い書き方だ。

 文字からして鎌倉時代のものを"言語理解"で読めたくらいだ。

 恐らくは最低でもそれ以前の人だったと考えていいかもしれない。


 この人も俺と同じように世界を歩き、様々な経験をしたんだろう。

 しかし、俺と同じ時代を生きる人だとは、とても思えなかった。


 そう思えなかった単語、"黄泉"。

 手前の石像を調べてみると、達筆な漢字で方角が彫られていた。


「……なんだろうな、この気持ちは。

 感慨深いものに似ているけど、どこか違うようにも思える。

 ここを造った人は、同じ日本人を探していたのかもしれないな」


 逢うことはできないが、どこか俺と通ずるようにも思えてならない。

 そんな不思議に思える感慨を持ちながらも、俺は話を続けた。


「"黄泉"ってのは、俺がすごしていた国で"死者の世界"を意味する。

 この世とあの世の境界が現実にあるとも言われてるんだ」


 "黄泉比良坂(よもつひらさか)"が有名だが、この場所は"猪目(いのめ)洞窟"を思い起こさせる。

 俺はしみじみと考えながら、言葉が自然と出ていたことに遅ればせながら気がついた。

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