ひとつとは限らない正解が
新たに開けた道を進むと、すぐに階段と思われるものが視界に映る。
ここにも魔物はいないようで安心するが、足元が暗いのは厄介だ。
念のため歩く速度を落として罠の確認をしながら進むと、広い空間に出た。
カンテラを掲げ、周囲を確かめるように視線を向けた。
「わぁ、ここはさっきの場所よりもずっと広いね。
今度は絵がたくさん飾られてるみたいだね、トーヤ」
「そうだな」
ドームのような半球体状の空間。
天井は7,8メートルくらいはあるだろうか。
その壁に一定の間隔をあけて様々な絵が掛けられているようだ。
中央には古代語で書かれた石碑がぽつんと佇むように置かれていた。
どうやらここでも謎を解く必要があるみたいだな。
「"裏切り者はこの世を去り、永久に煉獄を彷徨い続けるだろう"」
「……うん。
よくわかんないけど帰ろっか、みんな」
今度はブランシェだけじゃなく、エルルまで帰ろうと言い出した。
「過激な言葉で書かれているが、これも謎解きに必要なヒントだよ。
ルートヴィヒは剣の置かれた場所まで進んで、無事に戻ってるんだぞ」
「そうだけど……そうだけどっ……」
今にも泣き出してしまいそうなエルル。
こういうところは子供らしくてどこか安心するな。
周囲を見回し、それぞれの壁に掛けられた絵画に視線を向ける。
飾られた絵の下にはレバーのようなものがすべてに仕掛けられていた。
正解のものを引き下げれば先に進めるってことだろうな。
広く開けられた半球状の壁に掛けられたものは風景画や人物画と様々で、中には子供たちに見せたくない処刑台の絵も飾られているようだ。
正面から時計回りに、果てなく続く広大な草原、髪の長い婦人、夕暮れ時の空、乳児を抱く母親、やんちゃそうな少年、古びた墓碑、今にも崩れそうな古城、縛り首の処刑台、小高い丘、生い茂る大森林、精悍な青年、ほっそりとした中年の男、ふたりの老婦人、淀んだ沼、ひげを生やした老人と幼い孫娘、満天の星空、洞窟の入口、雲に陰る三日月、燃え盛る太陽、赤い実をつける木、湖面が輝く美しい湖、そして煌びやかな装飾が施された宝剣の22枚だ。
この中に、ひとつとは限らない正解があるんだろうな。
「"この世を去り"ってことは、やっぱりあのお墓なんじゃない?」
「剣を探しにきたんだから、きらきらしたあれじゃないの?」
「ふらびい、あのおいしそうなあかいみがたべたいの」
「綺麗な星空ですね」
「あれは我がいた湖だろうか」
そう言葉にするエルルが怖がりながらも絵を指す。
たいして考えもせずブランシェは豪華な剣を指さした。
果実を実らせる木に視線を向けるフラヴィはお腹が空いたんだろうか……。
大人ふたりが言葉にしたものは、答えだと思って出したわけではなさそうだな。
ものの見事に意見が割れたが、これだけ多くの絵画が飾られている中での統一性は感じられず、乳児から老人へ向かって進んでいくわけでもなければ、風景画にも作為的な順で置かれているわけでもないように思えた。
となれば、答えはひとつに限られる。
これも空人じゃなければ答えられないだろうな。
……もしかしなくても、この世界の住人には渡したくない剣なのか?