託そうとしていたのか
文字が彫られた腰の高さまである石碑に注目が集まる。
残念ながら俺以外は読めないだろうから、謎を解く楽しみも味あわせてあげられそうにないな。
「それで、石碑にはなんて書いてあるの?」
「"10人の連れが、新たな道を切り開くだろう"」
「……それだけ?」
「それだけだ」
ぽかんと呆けるエルル。
とりあえず俺たちは、石像に何かが隠されていないかを調べることにした。
とはいえ、罠が起動しかねない。
像にはふれないようにと念のため釘を刺した。
まずは目視で確認するべきだし、ふれただけで発動されても困るからな。
「……調べたけど、手がかりは特になさそう?」
「全ての石像の下部に古代文字で書かれた数があったぞ」
「……あ、ほんとだ。
すっごいちっちゃい字で、なんか彫られてるね」
「この数字は何かを意味しているのでしょうか?」
「あぁ、それも含めて謎はもう解けたぞ」
「えぇ!?」
エルルには盛大に驚かれたが、これは何てことはない。
そもそも謎にすらなっていないような、かなり単純なものだ。
唯一の問題があるとすれば、ヒントとなる文字が古代語で書かれている点だ。
それ以外は小学生でも解けるようなもので、正直助かった。
「これは何の像だ?」
「……おさるさん?」
「そうだ。
じゃあ左のは?」
「にゃんこ」
「そこまで分かれば、あとはそれぞれの像に書かれた数字で読み解ける。
謎よりも、それが"古代語"で書かれたものってことの方が厄介だな」
「……そうか!
なるほど、そういうことだったんだ!」
エルルの言葉に首を傾げる4人。
リージェはもちろんだが、レヴィアも文字が読めないらしい。
文字ってのは人が交流の手段として創りあげたものだろうし、龍である彼女が知らなくても不思議じゃないどころか、長命の彼女たちが文字で何かを書き残す必要性すらなさそうだ。
……そもそも巨体では書きづらいし、考えもしないことのかもしれないが。
「どういうこと、エルルお姉ちゃん」
「あのね、ブランシェ。
石像に書かれた数字は、動物の名前を文字にして何番目かを示しているの。
つまり……っていうか、あたしには古代語で書かれちゃうと全然読めないや」
まぁ、普通はそうだよなと思いながら、話を引き継いだ。
「つまり10体すべての像から一文字ずつ繋ぎ合わせることで文章になるんだ。
答えは、"真実は大蛇の口の中に"、になる。
だがこれを解くには古代語を理解していないと不可能だ。
そういった知識をしっかりと身につけてなければ先に進めない点を考慮すると、そもそも謎解き自体は問題じゃなく、ルートヴィヒが手記に残していたように"空人"を待っていたのかもしれない」
これは憶測になるが、空人に剣を託そうとしていたのか?
ただの愉快犯にしては手が込みすぎているし、"言語理解"スキルを持っていないなら古代語に造詣が深くないと解けないようになっているのは間違いない。
……となると、その理由も自ずと限られてくる。
この先に置かれてる剣は、アーティファクトの可能性が高まったと見るべきだ。
そしてそれは、信頼の置ける人物でなければ渡せない、とも思えてならない。
ひとつ気になるのは、ヒントの序盤か。
どういった意図でそんな表現をしていたのか、俺には分からなかった。
威嚇する大蛇の像。
牙を避けつつ手を伸ばすと、喉の奥に何か仕掛けがついているようだ。
強く引っ張ると何かがはまった音が聞こえ、空間の右側に新たな道ができた。
「やったぁ!
これで進めるね!」
「そうだな」
「あまり嬉しそうではないな」
若干声色が低くなった俺の様子を悟ったかのように、レヴィアは訊ねた。
実際、嬉しくないわけじゃないが、気になる点は多い。
「どうやらこの先に置かれている剣は、本物で間違いなさそうだ。
そう思ったら、なんだか緊張してきたんだよ」
「なるほどな。
確かにこの世界には人智を超えたと思われる武具が存在する。
我がいた……集落、のようなものだろうか。
そこにも輝く斧がひとつあったな」
「輝く斧!?
なにそれかっこいい!」
斧ではなく目を輝かせて答えるブランシェだが、彼女の故郷と呼べる場所はここから相当離れているそうだ。
そもそも龍種が隠れ住んでいるらしいから、色々と面倒事になるだろうな。
「ごしゅじん!
そこに行こうよ!」
「行こうって、正確な場所は憶えているのか?」
「おおよそではあるが、憶えている。
しかしここからは遙か彼方とも言える距離があるぞ?」
「なら、当分は難しいだろうな」
「えー……」
ブランシェには悪いが、色々と片付けなければならない事案がある。
何よりも、エルルの家族も探さないといけない。
北に行き過ぎて人がいないような高山を越えた先、なんてことになりかねないし、現実的に行くとしてもすべての問題が解決してからになるだろうな。




