戻ろうよ
隠し扉を思わせる壁の奥へ、俺たちは足を進める。
荒々しいトンネルのような道が5分ほど続いていたが、どうやら罠もなく無事に抜けられたようで安心した。
細長く造られた空間。
天井は4メートルほどか。
これを造るだけでも相当時間をかけたと思われるが、問題はその先だな。
「ふむ。
魔物もいないようだな」
「まぁ、隠し部屋みたいなものだろうし、いたらいたで問題だよ」
密室に魔物とか、いったいどこから入り込んだんだよと驚くだろうな。
もしかしたらこの世界ではゲームのように魔物が沸くのかもしれないが。
だとすると、非常に厄介な問題になりかねない。
それは詰まるところ、屋外では休まるところはないという意味を示す。
町の中だから安心だとは言い切れないと思うが、実際に町中で魔物が発生した事例は確認されていないらしいから、魔物の出現はまったく別の現象なんだろうか。
「……あれ、なんだろ?」
エルルが指をさした先に何かが置かれているようだ。
入口から真っ直ぐ進んだ壁際に並ぶ多数の石像。
そのどれもが動物で、まるで威嚇するようにこちらを睨みつけていた。
像の左端には何かが書かれた石碑があるみたいだな。
「ふむ、石碑か」
「文字が刻まれてるね。
なんて書いてあるか読める? トーヤ」
「ルートヴィヒも使っていた古代語に似ているな。
……"地を切り裂く武具を求めし者に災いあれ"……」
「よし帰ろう! ごしゅじん!」
くるりと反転して歩き出すブランシェの肩を掴み、呆れながら答えた。
「待て待て。
こういったものは怖がらせて帰らそうとするのがほとんどだと思うぞ。
そもそも人為的に造られた場所なんだから、これを造ったのも人だ」
「しかし、災いが何か分からんのは危険ではないか?」
「それも予想がつく。
大方、道順や手順を間違えると罠が待ち構えてるってことだろうな」
「……十分危ないよぅ……戻ろうよぅ、ごしゅじん~……」
泣きそうな、いや、もうすでに泣いてたブランシェが情けなく声にする。
母親はあれだけ精悍だったのに、この子はまだまだ子供なんだな。
「それでもかまわないが、ここまで手の込んだことをするだけの価値があるものがこの先に置かれているってことになるだろうな」
もっとも、ルートヴィヒが残した手記から何があるのかは知っているんだが。
逆に考えれば、レジェンダリー級の剣である可能性が高まったように思えた。
「でもトーヤ、手に入れるにしても、武器らしいものは見当たらないよ?」
「武器が堂々と置かれてたら、石像の意味がなくなるだろ?」
「手がかりはあるのか?」
「それについて手記には書かれていなかったが、石碑に続く文字と石像が関係しているんだろうな」
恐らくルートヴィヒは"この程度の謎くらい解いてみせろ"と、挑戦的な意味合いで文書に残さなかったんだと思えた。
いや、もしかしたら単に彼は、こういった悪戯が大好きだったのかもしれない。
……なんか、どちらものような気がしてきたな……。
顔も知らない男がにやにやしてる姿が見えるようだ……。




