表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十一章 長い夜
355/700

未来を先読みする力

 西北西に進路を変えて2時間と少しが経った。

 目的となる場所はまだ見えないが、景色は徐々に森からごつごつとした岩が見え始め、まるで荒野のような荒々しい道が目に映る。


 いくつか小高い丘のような場所も見える不思議な地形。

 なぜ森の近くでいきなりこんな場所が出てくるのか疑問に思ったが、たとえ俺が地質学を学んでいたとしても正解なんて出るはずもない異世界に、首を傾げること自体が間違っているのかもしれないな。


 この辺りからフェルザーの湖が北に伸びていない場所となる。

 とはいえ、西側にも広がるらしい湖の巨大さに、俺は若干呆れていた。


「……さて、この辺りのはずなんだが」

「んー、ごつごつした岩ばっかりだね、ごしゅじん」

「洞窟だっけ?

 そんなのあるのかなぁ」

「また、なぞなぞなのかな、ぱーぱ」

「今回は正確な位置も分かっているし、洞窟自体が隠されているわけでもない。

 しいて言えば、今は200年も時間が経っているから多少風化はしてるだろう。

 それに周辺の詳細が書かれた現在の地図も持っていないから、ある程度は足で探すことになると思ってたよ」


 地図に書かれた古代語を解読するならまだしも、なぞなぞは正直ごめんだ。

 作った本人の匙加減で答えが変化するし、頭が柔らかくないと解けない。


 ……思えば俺は、子供の頃からなぞなぞが苦手だったな。



 しばらく歩きながら探してみるが、洞窟と思われる場所は見当たらない。

 しかし、それほど広範囲に荒地が続いているわけでもなさそうだ。

 随分先ではあるが、東には平原が見えているし、恐らくはこの先を進んでいくだけでヘルツフェルトが見えるだろう。


 魔物はもちろん、動物すら気配を感じない一帯。

 戦うならここが最適だなと、危険なことを考えてしまう。


「……何も、ありませんね」

「ふむ。

 洞窟ということなら、岩にできているんだろうか。

 となると、なるべく大きめの岩に入口があるのかもしれないな」

「んー、気配を探っても生き物にしか反応しないんだよね?

 この辺り一帯をばぁっと把握できたらいいのに」

「それはさすがにできないな。

 ある程度は相手の高さから予測できるが、無機物に効果はないんだ」


 これはある意味で弱点とも言えるかもしれないが、それ以上の有益な効果を持つこの力は十分過ぎるほどの性能をもっている。


(ぬし)のは気配察知といったか。

 ヒトの身でそれができる者を我は聞いたことがない」

「ごしゅじんが使ってるのって、とっても特別なの? レヴィア姉」

「そうだろうな。

 発想した程度でヒトの子に習得はできぬはずだ。

 それには(たゆ)まぬ努力と研鑽が必要になる。

 ヒトからヒトへ、まるで受け継がれるような技術なのだろうな」

「気配察知は軽々と教えられるほど単純なものでもない。

 何よりも信頼の置ける人じゃないと、教えることそのものが危険なんだ」


 それにこれは気配を感じるだけじゃなく、戦いに大きく影響を与えるものだ。

 正確には気配を読めるといった方が正しいかもしれない。

 相手の攻撃に限らず、動作すら予測しうる可能性を秘めた力で、それは言うなれば未来を先読みする力とも言い換えられるだろう。


 だからこそ俺は心から信頼の置ける者にしか教える気はない。

 恐らく冒険者に教えるのはディートリヒたちだけになるだろう。

 たとえ誰かに乞われたとしても教えることは断固拒否する。

 それだけ危険なものでもあるし、悪用すれば最悪の力に変貌するからな。


 それに俺が習っている武術は武道でもスポーツでもない。

 対人戦に重きを置いた、確実に人を倒すための古流武術だ。


 剣術や槍術だけじゃなく体術や投擲術などを幅広く習うこの武術は、使い手の発想力次第で落ちてる石ですら立派な武器として使うことができる技術となる。

 中でも気配を察知できる能力は、初歩的なものとして習ったりはしない。

 これは本来、師範代になるために必要となるプロセスのひとつだ。


 しかしそれも、現在の日本においての話となる。

 異世界であるこの場所には魔物がいるだけじゃなく、盗賊のような馬鹿が我が物顔で歩いてることがある。

 そんな世界を気配察知なしで歩くのは危険極まりない。


 このことをディートリヒたちには教えていないが、彼らの訓練を阻害するかもしれないから言わなくて正解だろうな。

 特にフランツ辺りは調子に乗る可能性も考えられる。

 そうなれば彼を自惚れさせ、命の危険に直面させかねない。


 強くなるための第一歩として俺はエルルたちにも教えたが、後悔はしていない。

 ここにいる誰もが俺を慕い、ここにいるみんなを家族だと思ってくれている。


 レヴィアもそうだ。

 まだ逢ってすぐとも言える時間しか共にしていないが、家族だと思ってる。


 ……気恥ずかしさからか、年上のふたりへ言葉にするのは中々に勇気がいるが。



「あ、トーヤ!

 あれかな!?」


 エルルが指さす方向へ視線を向けると、大きめの岩に小さな入口と思われるものが口を開けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ