戦場と化すだろう
とりあえず、今回の模擬戦では色々と得たものがあったはずだ。
横で大人たちふたりは寂しそうに見つめているが、リージェの魔法はエルルの威力を遙かに超えるから、対人戦では手加減でもしなければ一瞬で片がつくだろう。
何よりもレヴィアは身体だけじゃなく水魔法も恐ろしいほどの強さがあった。
俺の見立てではどちらの魔法も、ランクS冒険者を遙かに凌駕している。
だが、彼女たちが持つ身体能力の強さは、人が持ちうるそれの比ではない。
ある意味リージェはブランシェ止まりだが、レヴィアは上限すら掴みにくい。
そんなふたりが子供たちとの模擬戦に参加すれば、戦場と化すだろう。
特にレヴィアは、腕力を含む身体能力がすば抜けて高い。
圧倒的と言えるほどだが、これもすべて龍種という種族からきている。
彼女は水龍から人に変化したのではなく、強さをそのまま凝縮させた存在と言い換えた方が正しいかもしれない。
彼女の強さは龍の姿の時と、なんら変わることがない。
むしろ敏捷性が極端に増した分、以前とは比べられないほど強くなった。
恐らくひと蹴りで村ひとつを壊滅させる龍尾と同等の威力を見せるだろう。
身体の強さは決して悪い影響だけを与えるものではないはずだ。
並みの攻撃であればすべてを弾く彼女の体はまさに鋼鉄を上回り、研ぎ澄まされた武器だろうとかすり傷すらつけることは不可能だ。
それこそドラゴンを退治できるような技術がなければ、レヴィアが負けることはないだろうな。
そんな彼女たちを模擬戦に参加させるわけにはいかない。
ふたりには悪いが、手加減を完璧に覚えるまでは見学してもらおうと思う。
そうしてもらえなければ、俺の体が持たないからな……。
「……悪いな」
「問題ない。
少々寂しさは感じるが、我らが入ると収拾がつかなくなりそうだ」
「そうですね。
いささか寂しくはあるのですが、加減は中々難しいのでご一緒するにはもう少しかかりそうです」
実際にふたりが参戦するとなれば、子供たちの連携がバラバラになるだろう。
特にレヴィアは強すぎる印象だから、たとえ手加減ができたとしても連携を取る必要性すら俺は感じない。
原始的な歩兵同士の戦いに戦車で乗り込むようなものだからな。
どれもが主砲クラスの武装で、おまけにいくら攻撃しても傷付かない鉄壁。
龍種ってのは総数が少なくとも幅広く種族がいるらしいから、本来は人なんかじゃ相手にもならない強者なんだろうな。
……穏健派が多いみたいだし、ほんと助かるよ……。
「うがー!
また負けたぁー!」
「まだ言ってたのか……」
「ぱーぱ、とってもつよいの!」
「……強いっていうか、あんなの反則だよぅ……」
うがうが言いながら悔しがる子、尊敬と憧れを抱く子、涙目でしょぼくれる子と様々だが、今回はみんな良くやったと思える内容だった。
「みんな、すごかったよ。
俺が子供の頃はこんなに強くなかったし、今回の連携は良くできてた」
「ほんと!?
ご褒美ある!?」
瞳をきらきらとさせながら、勢い良く起き上がるブランシェ。
修練の内容が良ければあげるようになったご褒美だが、この子たちのやる気に直結するようだし、それが励みになるなら多少厳しくても頑張れるみたいだ。
村の一件ではこの子たちにも随分と心労がたまってるし、気晴らしにでもなるかと出してみたら思いの外高評価だったんだよな。
毎回考える俺としては結構大変なんだが……。
「今日は特製プリンだ。
新鮮な卵を使ったから、濃厚で美味いと思うぞ」
俺の言葉に両手を挙げて喜ぶ子供たち。
エルルもようやく元気になったどころか、次の作戦を考え始めているようだ。
やはりこの子はいずれ、パーティーの頭脳になれそうだな。
美味しそうに食べる子供たちに頬を緩ませながら、俺はリージェとレヴィアにもプリンを渡した。
「む?
良いのか?」
「私たちは何もしていませんよ?」
「いや、ふたりは模擬戦参加を我慢して、子供たちを見守ってくれた。
だからこれもご褒美になるから、遠慮なく食べてほしい」
「そうか、"見守る"か。
なら、遠慮なく頂こう」
「では私もいただきますね」
心が弾むふたりの気持ちが伝わる。
笑顔でスプーンを受け取ったふたりは厳密に言うと、食事そのものを必要としていないらしい。
どこか似通った部分を感じるが、綺麗な水が少量あれば生きられるそうだ。
どちらも燃費が良すぎるんじゃないかと思えてならないが、食べられないわけでもないと聞いているので、"なら一緒に食べよう"と誘ったのが始まりだ。
リージェの方は一緒に旅をしてからすぐにそうしてきたが、レヴィアも同じように食べられるらしいから、こうして食事やおやつはみんなで取るのが習慣になっている。
取らなくても生きられるなら、一緒に食事をすればいい。
食べたくないなら別だし、食べられないなら仕方ないが、食卓は大勢で囲んだ方が美味いからな。