羨ましい価値観
「それで、これからどうする?」
「まずは町で必要なものを買って、魔物の育成準備かな。
生活魔法を覚えてみたいし、図書館で勉強もしたい。
俺は、ひとりでも生きられる技術を身につけた方がいいと思ってる。
それも魔物を育てながら生活すれば、ある程度は身に付くだろう。
だからみんなとは、もうしばらくしたら別れようと思うんだ」
その言葉に一同は驚き、共に行動するべきだと話した。
予想していたこととはいえ、こうも必死に反対されるとさすがに心が揺らぐ。
それでも俺自身だけじゃなく、みんなの命まで危うくするかもしれないと伝えると、彼らは言葉を詰まらせた。
その可能性は誰だってある。
彼らにだって十分起こりうる。
だからこそ俺は言葉にした。
「まずは、俺だけでもこの世界で生きていける強さを手に入れたいんだ。
それにはひとりで世界を歩くことが一番の近道になるし、卵も手に入れた。
町に入れず足止めも悪いし、何よりも俺だけの手で育ててみたいんだよ。
……それに、俺ひとりで強さを手に入れられたら、みんなのことを"仲間"だって、胸を張って言葉にできると思えたんだ」
その言葉に頭をかきながらディートリヒは答える。
フランツ達も彼に続いて話した。
「……殺し文句だな」
「ま、なんだ。そこまで言われちゃ、言葉を返すのも野暮ってもんだよな?」
「ですね。冒険者は自由であるべきですから」
「何かあれば私達を頼ってもらうという形なら、再び逢える日もそう遠くない内にやってくるでしょう。
その時に成長した我々をお見せできるよう、無理せずに頑張りましょう」
エックハルトの言葉が心に染み入るように伝わる。
やはりこの人は、司祭としているべきだと思えるような才能を持っている。
俺にはそう思えてならなかった。
* *
卵をインベントリに収納した俺は、残りの宝がないかを確認した。
残念ながらあとは汚れた布や、よく分からない食料が入った樽くらいのようだ。
それでも随分と潤ったなと思っていると、フランツは訊ねた。
「魔物を育てるにしても、その先はどうすんだ?」
「そうだな。折角異世界に来たんだ。自由にこの世界を満喫でもするかな。
必要になったら馬車でも手に入れて、気の向くまま世界を歩こうと思うよ」
「満喫って、お前なぁ……。
いや、こいつにゃ何言っても伝わらん気がしてきた……」
「まぁ、いいじゃないかフランツ。
冒険者ってのは何をするのも自由なんだ。
何ものにも束縛されずに世界を歩こうなんて、正直羨ましい価値観だよ」
気持ちよく声を出して笑い合う。
仲間ってのはいいもんだなと感じる一方で、俺自身が世界を旅して出会った人達とこういった関係を作っていくのも楽しそうだ。
まぁ、世間知らずの空人と一緒にいようなんて変わり者は、彼らくらいしかいないかもしれないけどな。
そんなことを俺は思いながら、今後の話を始める。
まずは檻に閉じ込めた、汚い声でさえずる駄鳥どもの件を町で報告。
俺は冒険者カードを作り、この世界で必要となる身分証を手に入れる。
ここから北北東にある町までは約1日半らしいので、鳥に水も食料もいらない。
その間、じっくりと世界について彼らから学び、町で必要品を買い揃える。
制服も変えないとだめだろうな。
夏服とはいえ、この格好は目立ちすぎる。
金属鎧は重いだろうし、革鎧がいいか。
防御力が革鎧並みにある服が理想なんだが。
魔法付呪されたものならあるかもしれないな。
魔物をある程度育てるまで町には戻れない。
それを踏まえて必要な物をたくさん買っておくか。
お宝を換金して、調理器具やら食材、薬類をインベントリに入れる。
冒険者としてのノウハウも少し教えてもらおう。
そんなところだろうか。
あとは自力で学び、必要なものを手に入れる。
図書館があるらしいから、そこにも行きたいな。
薬草だけじゃなく、毒草などもしっかり学ぶべきだろう。
折角の異世界なんだから、日本じゃできなかったことをしようと思う。