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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十章 人ならざるもの
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見守る義務

 本音を言えば、二度と近づきたくなかった。

 はっきりとそう思えるような村が、残念なことに眼前まで見えている。


 しかし、ここで白黒をつけなければならない。

 何よりも問いただしたいことがあるし、逃げられなくなっていた。


 レヴィアも同じ気持ちなのだろう。

 明確な嫌悪感が伝わるほどの気配をその身にまとっていた。


 思えば巨大な水龍の時は感じなかったが、人の姿になってようやくはっきりと気配を認識できるようになった。

 恐らくは大きさと密度が関係しているのかもしれないな。

 今後もああいった山のような存在を相手にすれば、同じようなことになると思って行動した方がいいだろう。


 ……なんて、まるで現実逃避のように別のことを考えてしまう俺も、まだまだ心が幼く弱いんだなと思えてならなかった。



 警備を担うモノがこちらを視界に捉えると驚愕したような表情を向け、門を放置して村へと向かって走っていった。

 この行動は色々と問題になるんだが、実際に魔物が門を越えて村の内部まで入り込んでも助けることはないだろうな。


 そんな必要も義務も、俺たちにはまったくない。

 それだけのことを目と鼻の先にある村の住民はした。


 とはいっても、体が勝手に反応して救ってしまうんだろうな、俺は。

 まるで呼吸をするかのように、どんな連中だとしても護るんだろうな。

 そんな姿が目に浮かぶことに情けなくも腹立たしくも思える複雑な心境だった。


 走り去る男の後姿を軽蔑の眼差しで追いながら苛立ちを募らせ、俺はここまでの道中でしっかりと話し合ったことを再度確認するようにみんなへ言葉にした。

 これからの対応と、万が一戦闘となった場合の対処法を。


 特にフラヴィとエルルは、強い恐怖心を受けるのが目に見えている。

 村の外であるこの場所でも相当の負担となっているのも理解しているが、この場に幼いふたりだけを置いていくわけにもいかない。

 レヴィアを連れて行く必要があるし、リージェはある程度しか俺と離れられない以上、心苦しいが村の外にも待機させることは難しい。


 どうしようもないとはいえ、申し訳なさを強く込めながら俺は話を続けた。


「……ごめんな。

 すごくすごく怖いと思うけど、少しだけ我慢してほしい」

「……うん」

「大丈夫だよ、ごしゅじん。

 アタシはいつでも動けるようにしておくから」


 とても小さな声をあげるフラヴィと、気合十分のブランシェ。

 決定的とも思える性格の違いに戸惑うことはもうないが、それでもこれだけ違うと思わず苦笑いが出てしまう。


「……今回の一件は、トーヤさんに託したいと思います。

 私は周囲の警戒に集中しつつ子供達を護りながら、事の成り行きを見守ります」

「ありがとう、リージェ。

 もしもの時は頼むよ」


 冷静に答えるリージェに感謝を伝えた。

 彼女の行動は、ある意味で正しいと思える選択だ。

 大勢で畳み掛けるように発言すれば本質が変化してしまう。

 それを彼女は理解しているのだろう。


 出逢った頃とは随分と違う印象を見せてくれているが、素直に喜ぶのはこの一件を終えてからになるだろうな。

 今はそんな気分にはとてもなれないし、向こうの出方次第では武力で制圧する可能性すら起こりうると俺には思えてならない。


 フラヴィは相当参っているようだが、この子にはとても悪いが少しだけ我慢してもらうしかないな。


 それでも、内心ではしっかりと理解しているはずだ。

 この子はここにいる誰よりも優しい子なんだから。


 対照的にブランシェは戦闘モードに入っているようだ。

 しかし、この子に戦いを任せるわけにもいかない。

 手を出させたくもない相手だし、可能な限り俺だけで対処をしたい。


「……トーヤ、レヴィア姉。

 あたしには何もできないかもしれない。

 それでもあたしたちは、これから起こることをしっかりと見守る義務があると、あたしには思えるんだ。

 だから、トーヤとレヴィア姉が正しいと信じる行動を取って。

 あたしはこの目でそれを見届けたい」


 恐怖を感じさせる瞳の色をしながらも気丈に振る舞うエルル。

 そんなこの子に誇らしさと、同じくらいの申し訳なさを感じた。


 レヴィアも同じ気持ちだったのだろう。

 俺と同時にエルルの頭を優しくなでながら言葉にした。


「……強いな、エルル。

感情をあまり表に出せない我でさえ怒りでどうにかなりそうなのに、その小さき体で大きなものを受け止める覚悟ができているのだな。

……ならば我もできるだけ穏便に済ませるよう心掛けるとするか……」


 チリチリと怒りの感情を剥き出し続けていた彼女は冷静さを取り戻す。

 そうすることがこの子たちにとってもいい影響を与えると思ったようだ。


 そしてそれはおおむね正しい。

 大人の背中を見て育つ子供たちが3人もいるんだ。

 下手な行動は取れないし、取らない方がいい。


 ……俺も、気をつけなければならないな……。

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