後悔しないのか
問題はそれだけじゃない。
それを理解してるだけに、続くディートリヒの言葉を俺は否定できなかった。
「ましてやドラゴンみたいな巨大なもんが手に入ったら、もう二度と町には入れなくなる可能性だってあるんじゃないか?
お前が町に行ってる間に冒険者や兵士達から討伐隊が派遣されることだってゼロだとは言い切れないし、魔物が言うこと聞かずについて来るかもしれない。
それがただの甘えで会いに来ただけだとしても、町にいる人達には関係ない。
いらない恐怖を与え、怯えさせることだって考えられるんだ。
中身が不明の卵を孵化させるってのは、そういう意味を持つんだよ」
確かにディートリヒの言う通りだ。
だからこそ国は、生産と販売ルートに制限をかけているんだろう。
何が産まれるのかも分からない卵が流通すれば、国が滅びかねない。
そういった危険性を持っていることも間違いではない。
それでも俺は、楽観視とも思える言葉が自然と出たんだ。
「まぁ、大丈夫だと思うよ」
「トーヤ……なんでそんな簡単に言えるんだよ。
重大な決断になるかもしれないことをそう簡単に決めて、後悔しないのか?」
ディートリヒの言いたいことも分かってるつもりだ。
これは単純な話じゃないんだろうけど、俺の場合、それは大きな問題にはならないんだよ。
「そりゃあ、後悔はするかもしれないな」
「だったらなんでだよ……。
お前の将来にも大きく関わるんだ。もっと慎重になるべきじゃないか?
トーヤが育てようとしているものは、何が出てくるかも分からないんだぞ?」
「いや、大丈夫だよ」
「何でそう言いきれるんだよ……」
がっくりと肩を落としながら話すディートリヒ。
でもその答えはしっかりと出せるものだった。
「どんな道を選んで出した答えでも、後悔する可能性が人にはあるからだ。
あの時こうしていれば、ああしていればって。それこそ際限なく手を伸ばし続け、手に入れようとするのが人間なんじゃないかな。
最善の行動を選択しても、心のどこかではきっと後悔がなくなるわけじゃない。
ほんのわずかでもより良い未来を掴み取ろうと考え、そうしなかった自分自身にわだかまりが残るものなんだと俺には思えるんだ」
そう感じるのは俺だけかもしれない。
それでも、俺にはそう思えるだけの、どこか確信じみたものを感じる。
だからこそ俺は、はっきりと言葉にできるんだろうな。
「人ってのは結局のところ、後悔しながら生きていくものなんじゃないかな。
なら、今いちばんしたいと感じることに向かって行くのがいいと思ったんだよ。
折り合いをつけるって言葉はあまり好きじゃないけど、心のままに導き出した答えなら、たとえ後悔したとしても納得はできると思えるんだよな、俺は」
それが正しいのかは分からない。
その答えを知る日が来るとも思えない。
だったら"自由気ままに生きたい"と、素直に思えたんだよ。
俺の瞳に映る色を見たのだろう。
どこか納得した様子で微笑みながらディートリヒは静かに答えた。
「……そうか。
なら、もう何も言わない。
何かあれば手を貸すからな、とは言わせて貰うが」
周りを見ると、同じ表情をしながら3人は俺を見つめていた。
俺は、本当にいい人達と出会えた。
それをしっかりと実感できたよ。
この出会いは誰かに仕組まれたものかもしれない。
もしそうだとしても、彼らと逢えたことを感謝したい。
まぁ、この世界に俺を導いた奴がいるんなら、文句のひとつも言わなきゃ気が済まないけどな。