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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十章 人ならざるもの
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何も書かれていない本

 大きめの箱に入れられていたのは推察通りのもの。

 白銀の輝きを放つような純白の本だった。


 まるで辞典にも思える厚さだが、中身には何も書かれてはいないようだ。

 本当にこれでいいんだろうかと思えてしまう俺の耳に声が届いた。


〔……龍の前で開くといい。

 ……その者の望む姿になるだろう〕


「そうか。

 心から感謝する」


 そう言葉にしたが、それ以降、声が届くことはなかった。

 随分と素っ気ないように思えるが、それでも目的のものは手にできた。

 それだけで俺には、いや、俺たちには十分だった。


「やったねトーヤ!

 これを使えば、きっと水龍さんを人の姿にできるよね!?」

「ぱーぱ、はやくもどろ?」

「そうだね!

 アタシもすぐに使ってあげたい!」

「待て待て。

 またあの長い通路を戻ることになるんだぞ?

 そんなに早く戻れないんだから、焦ることもないと思うが」

「ふふっ。

 これが"いてもたってもいられない"という感情なんですね。

 とても不思議な気持ちですが、私もあの方とお逢いするのが待ち遠しいです」

「リージェまで……。

 わかったわかった。

 それじゃあ戻るが、休憩はいらないのか?」


 愚問なのは十分わかっているが、それでも訊ねてしまう。

 フラヴィにも言えることだが、今回はエルルの方が気になる。

 疲労感が相当溜まっているのは間違いないし、ここで無理をし続ければ熱を出して寝込むことすら考えられるから、できればこの場所でしっかりと休息を取りたいところだが、残念ながらそうはいかないようだな。


 こういうところはエルルも年齢相応に思えるが、内心は不安が拭い去れない。

 いや、湖畔まである程度は水龍の上で休めるから、その時にスタミナポーションを飲ませておくか。


 栄養剤の香りをさらに強烈にして、苦味とえぐみに酸味をぶち込んだような薬をもう一度飲んでくれるかは微妙なところだが……。


 ……バニラアイスをちらつかせて我慢してもらうか……。

 いや、それだとみんなも欲しがるし、いっそ全員で薬を飲むか。

 それならみんな平等だし、全員の体力を回復できて安心する。


 俺も若干の疲労感が溜まっているから飲んでおいた方がいい。

 味の不味さに定評はあるが効果はしっかりと確認している。


 こんな状況だし、本音を言えば万全を期して毎日飲み続けるべきなんだろうけど、あれはあれで1本5000円はするからな。

 金銭的な意味でためらってしまうが、みんなの安全に繋がると思えば安いか。

 これもしっかりと考えておく必要がありそうだな。



 それにしても、"妙諦(みょうたい)よりて、遂に神が生まれ(いで)り"、か。

 人ならざるものを神として崇め奉ろうとしていた当時の人間には悪いが、それを神と呼べるかといえば俺には難しいとしか言いようがないだろうな。


 それはただ人でないだけで、神足りえるかと聞かれても俺は頷けない。

 そんなものを崇拝しようとしていたことに誰も疑問を持たなかったのか。


 いや、宗教ってのは得てしてそういうものなのかもしれないな。

 俺にはその答えを出せないだろうし、その場を目撃しても非道なマネをしていないなら興味深げに見守るはずだ。



 ……なぜ、こんなことになったんだろうな……。

 きっと俺には、生涯理解できないことなのかもしれない。

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