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空人は気ままに世界を歩む  作者: しんた
第十章 人ならざるもの
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間違いなさそうだな

 静寂が包まれる大きな室内に、俺の声が響いた。


「それで、どうなんだ?

 水龍を人の姿にする秘術を知っているのか?

 それともそんな方法など、初めからないのか?」


 ……俺の問いに答えない。

 答える気はない、という意味だろうか。


 対応の遅さに若干苛立っていると、思いがけない場所から声が聞こえた。


「ちょっとあんた!

 トーヤの話、聞いてるの!?

 知ってるの!? 知らないの!?

 ハキハキと答えなさいよねッ!」

「え、エルル……。

 俺の言葉遣いもどうかと思うが……その言い方は、さすがに良くないぞ……」

「むぅぅッ!」


 頬を膨らませながら苛立ちを抑えきれないエルルに、俺は少し引いていた。

 この子がこれほどまで怒りを見せたことに気圧されたのかもしれない。


 〔……龍をヒトに変える真意は何だ〕


 いたって冷静に答える声の主に俺は答えた。

 隠す必要なんてまったくないからな。

 ありのままを言葉にした。


「――つまり、水龍が湖に居続けることは良くないと判断した。

 当然、このまま済ますつもりは毛頭ないが、そうすることである程度は連中の行動にも制限をかけられるはずだ」


 それでもまた同じことが繰り返される外道共なら、その時は本気で潰すだけだ。

 水龍がどう思うかはまだ聞いていないが、俺なら実行するだろうな。

 ……そうしなければならない理由が、俺にもできてしまった。


 いまだ確証は得ていないし、あの場で確認することは避けた。

 だがそれを確信するだけの違和感を、あの時すでに覚えていた。


 そしてそれこそがフラヴィを恐怖させ、エルルが怯えブランシェが威嚇し、リージェが悲しみの中にいたことに繋がる。


 その違和感にみんなは気がついたんだろう。

 俺のように確かなものとしては感じ取っていなかったみたいだが。


 本音を言えば、一度でもそんな経験をさせたくないと思える。

 それにあの場で訊ねなくて正解だったかもしれないと今は思ってる。

 水龍の言葉を聞いて、彼を連れて村に戻る必要があることを確信した。


 むしろ彼には知る権利がある。

 いや、きっと彼なら知りたいと願うだろう。


 だからこそ彼を人の姿にしたい。

 そうすることで水龍には辛い思いをさせるだろうが、それでも俺は彼に事のすべてを自身の体験として感じ取ってほしいんだ。

 逆にそうしなければコルネリアが救われないとも思えた。


 名前と性別しか知らない子だが、ここまで関わったんだ。

 もう他人とは思えない彼女のために、俺ができることをしたいんだよ。



 しばらくの間、声の主からの返答を待つ。

 ヒトではない存在には理解できないことなのかもしれない。

 だからといって水龍をそのままにもできない以上、人にすることは必要だろう。


 ……これでダメなら、俺が力を貸せばいい。

 先に済ませる事案があるから今は難しいが、永遠にも思えるような時間を過ごしている彼ならきっと待ってくれるはずだ。



 暖かな光溢れる空間の中、不思議と優しい風が頬をなでたような気がした。


 意識を窓の方へ向けると同時に、眼前の台座に変化が生じる。

 煌く雫が数滴ほど台座に落ち、薄水色の淡い光を放つ。

 優しい光がゆっくりと収まると、そこには置かれるようにして何かがあることに気がついた。


「ご、ごしゅじん! あれ! あれ!」

「……あぁ、見えているよ」


 口をぱくぱくとさせながら指をさすブランシェに、俺は答える。


 どうやらここで間違いなさそうだな。

 となると、続く言葉にも推察が立てられる。


 〔……開けるがいい〕


 そうか。

 やはり、ここがそうだったんだな。


 ようやく確信できた俺は数歩進み、白い箱と思われる物の蓋に両手を伸ばした。

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